ようやく双子のパラドックスが理解できた・・・と思う
高校数学でわかる相対性理論(ブルーバックス)[新書] - 竹内 淳(著)
特殊相対性理論は子供のころから幾度となく一般向けの入門啓蒙書を読み,ある程度理解したつもりにはなっていたのですが,しかし大学できちんと学ぶ機会を逸したので,結局は浅い理解しかできていないという自覚がずっとありました.特に,双子のパラドックスは,どちらから見ても相対的に運動しているのだから,どちらか片方だけが時間が遅れるのはおかしいと感じ,それが心に刺さったとげのようにいつまでも私を悩まし続けていました.私と同じように悶々としている人は多いのではないでしょうか?
そういうあなたはぜひこの本を読むべきです."高校数学でわかる" というのは書籍のマーケティング上は有用なのでしょうが,特殊相対論に限っては実はどうでもよいことで,何しろローレンツ変換は線形変換なので,高校生の数学でももともと十分.この本の数式の展開はちょっとくどいくらいなので,もう少し端折ってもよいのではと思うほどです.
この本の真髄は,数式がやさしいというところではなく,初学者が陥りやすいところを丁寧に補う配慮が散りばめられているところにあります.双子のパラドックスについては,ミンコフスキー図での説明を通して,互いに相手の時刻を確認するというのがいかなる事象かということを丁寧に説明してくれるだけではなく,宇宙船に乗った兄が途中で反転して地球に戻ってくることに関しても,時空図と固有時を使って非常に丁寧に解説してくれるので,私は生まれて初めていくつかの新しい発見を味わうことが出来ました.ローレンツ変換の不思議は,そう単純ではなかったのです.
この本のもう一つの特徴は,特殊相対論を電磁気学に適用していることです.これは一般向けの啓蒙書には皆無といってもよい特徴で,お陰で,私は荷電粒子が磁場の中を運動するときに働くローレンツ力が,相対論的な力であるということを初めて理解できました.運動速度が光速に比べてはるかに小さくても,有意に大きな相対論的な力が現れるのは,電磁気学の非常に大きな特徴です.この本を読むことで,このことを初めて学ぶことが出来て,有意義でした.
一つだけ不満を言うとすると,途中で四元ベクトルの説明を行い,反変ベクトルや共変ベクトルの解説に踏み込んでいますが,これは相対論的電磁気学や一般相対論への足掛かりになるとはいえ,特殊相対論の範囲では特に必要はないので,むしろ省いたほうが良いのでは?と思いました.
ともあれ,初学者にここまで配慮した入門書はなかなか見当たらないので,知的パズルを楽しむつもりでこの本を読むことをお勧めします.私はとりあえず通勤電車の中でさっと読んだだけなので,定年後にもう一度机の上でノートを取りながら,じっくりと読み直してみようと思います.この著者の他のシリーズも読んでみたいですね.
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