なぜ竜巻を突風と呼ぶのか?
一昨日,そして本日と関東地方は竜巻に襲われました.上空に寒気が入っているときに,南から暖かく湿った空気が流れ込んで激しい対流が起き,スーパーセルという巨大積乱雲が発達しているときに,何らかの揺らぎで局所的に激しい上昇気流が起きるとそれが竜巻にまで発生する,という現象のようです.
ところで,この現象の報道を見ていると,なぜか "突風" という用語がまず使われ,その後気象台や気象庁が認めて初めて "竜巻" という言葉が使われるように思われます.なぜこのような用語の使い分けが行われるのでしょうか?
そもそも,突風という用語は,強い風が "短時間" 吹くことを意味しているはずです.即ち,短時間に風速が急速に上昇し,それが短い間継続した後に,また短時間で弱まる,という物理現象を言っているはずです.このときの短時間という時間スケールは,数秒からせいぜい10秒のオーダーでしょう.
ところが,竜巻は,風速の脈動はあるとしても,かなりの長時間,数分から長いものでは10分を越えて継続する現象です.これを突風と呼ぶのは違和感を感じます.竜巻は移動しているので,地表のある地点に固定した観測点から見ると,特に竜巻が高速で移動している場合には,風速が強い時間は短時間に限られますから,それを突風と呼んでも論理的な矛盾はありません.しかし私たちが認識する竜巻とは,地表の一点での風速ではなく,空間的広がりを持ち,かつ移動する竜巻という現象全体であるはずです.また竜巻の移動速度が遅い場合には,地表の一点に限っても強風の持続時間は10秒をはるかに超えるので,それを突風と呼ぶのはいかにも無理があります.
気象関係者がどのような意図をもって言葉を使い分けているのか,説明が必要と思います.誰が見ても竜巻とわかる映像が多数ある中で,翌日になって現場に出かけ,被害状況を見てようやく竜巻と判断して公表するという姿勢は不可解です.最初から竜巻と呼ぶと社会不安をあおるとでも考えているのか?それとも損害保険会社への影響があると考えているのか?できるだけ竜巻とは言いたくない理由でもあるのでしょうか?判断ミスを恐れてそうしているのであれば,これは無謬性を貴しとする役人根性そのもので,公衆に危険を周知させる役割をサボっているとも言えますが,こういう見方は意地悪でしょうか?
もちろん,現場の被害状況を細かく見ることは非常に重要で,それを軽視しているわけではありません.竜巻の強さを最終的に判断するのは被害状況を見るしかありませんし,今後の防災に役立だてるには現場の観察と検証が何より重要です.しかし,多数の映像がありながら竜巻であると公式に即断できない態度は,私たち一般公衆にはいかにも不可解です.
背景としては,日本における竜巻を観測する体制の不備があげられると思います.何といっても,ドップラー・レーダの数が圧倒的に少ない.関東平野では,千葉県柏市の気象大学校,羽田空港と成田空港,そしてつくばの気象研くらいにしか公的なドップラー・レーダーがありません(軍用は別).またそれらのデータをリアルタイムで配信する体制がなく,竜巻の専門知識を持つ予報官も少ないという貧しい状況なのです.
実は2008年3月から,気象庁は "竜巻注意情報" を出し始めました.しかし,実際に左のリンクをたどってみていただくと分かるように,予報が難しいことを反映してか,内容は非常に定性的で,さほど役に立つとは思えません.
一方,気象庁はナウキャストとして,即時性の高い降水・雷・竜巻の情報を発信しています.さらに,国土交通省が試験運用中の "XRAIN(XバンドMPレーダー情報)" もあり,これらは竜巻そのものを見ているわけではありませんが,強い積乱雲と降雨の位置がリアルタイムでわかるので,参考にはなります.
竜巻が頻発するアメリカでは,気象機関のみならず,テレビ局が自前でドップラー・レーダーを備え,かつ全米で数百人と言われる竜巻専門の予報官がテレビの気象番組に情報を提供しています.重要なことは,予報することよりも,発生したら,あるいはその前兆を捉えたら直ちにその情報を発信できる体制を備えることです.日本では竜巻注意情報が毎日のように発表されてはいますが,注意報であって発生情報ではないこと,また発生したら直ちに地区のサイレンを鳴らすような体制が無いため,実際に被害を防ぐには至っていません.
小出力のXバンド・ドップラー・レーダーを10kmメッシュくらいで多数配置し,ネットワークでつないで人工知能でモニターするという体制ができるといいなぁと思います.
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