炭鉱町を衰退から救った人々の心意気
フラガール [Blu-ray] - 松雪泰子(出演),豊川悦司(出演),李相日(監督)
一世を風靡し社会現象にもなった映画ですが,これまで全編を通してじっくり見たことがなかったので,改めて画面にきちんと向き合って鑑賞しました.
昭和の後半,燃料はすでに石炭から石油やガスの時代に入っており,各地の炭鉱は次々と閉山されていました.常磐炭鉱もその例外ではありません.炭鉱とともに栄えてきた地域社会を守るため,町おこしのため,炭鉱の副産物であった温水を利用した常磐ハワイアンセンターなるものが構想されます.当時からすでに大規模な温泉町には "ジャングル温泉" というものはあったのですが,常磐ハワイはそれをさらにスケールアップして,温泉だけではなく,ハワイの雰囲気を味わえる常夏の娯楽センターを作ろうとしたのです.
その娯楽施設の呼び物として,フラダンスやタヒチアン・ダンスを見せものにしようとしたのですが,何とそのダンサーたちを養成する学校を作り,地元の炭鉱町の女性たちをダンサーとして育てようとしたのでした.普通に考えれば,そんなこと出来るわけないっぺ,と岩城弁で返されるのでしょうが,炭鉱からの転身にかけた常磐興産の人たちはその非常識に挑戦しました.その挑戦の物語を映画にしたのが本編です.
創作や脚色はたっぷりと入っているのですが,全編を貫くのは衰退に抗して挑戦する人たちの心意気です.脚本が良くできていて,話にはいくつもの山があり,観る人を何度もハラハラドキドキさせます.登場人物たちはやや類型化されてはいますが,演出が良く効いていて(その分指導はたっぷり入ったのでしょうが)安心して観ていられます.見ものの一つは,前半で,岸部一徳が演じる吉本紀夫が,松雪泰子演じるダンス指導者の平山まどかを,岩城弁を長々とまくし立ててののしる場面.複数テイクのつなぎ合わせには見えなかったので,おそらく本当にとちらずにしゃべり終えたのでしょう.これはすごい.
炭鉱町の少女たちが,苦難を乗り越えながら少しずつプロのダンサーとして成長していくプロセスが,もう少し丁寧に描かれていてもよかったと思いますが,まあこんなものかなぁ?せっかくだからフラの基本がもう少し解説されてもよかったとも思います.それでも終盤近く,列車でいわきを去ろうとする平山まどかをフラのジェスチャーで引き止めるシーンは,この映画のクライマックスの一つ.それで目立ったのが主演格の蒼井優.とても表情がいい女優ですね.多感な少女の表情を作るのがすごくうまい.
衰退する炭鉱町を題材にした映画は洋の東西を問わず数多いのですが,音楽を題材にしたのはイギリス映画の "ブラス!" やアメリカ映画の "歌え!ロレッタ愛のために" などがあります.
スパリゾートハワイアンズは,その後山谷はあるものの,入場者数は増加傾向にあるそうですから大したものだと思います.東日本大震災ではおそらく大きな被害を受けたことでしょうが,それにもめげず,です.おそらく心意気と巧みさを併せ持っているのでしょう.
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