Shell Global Scenario to 2025の警句を別の視点で結実させた名著
グローバリゼーション・パラドクス: 世界経済の未来を決める三つの道(単行本) - ダニ ロドリック(著),柴山 桂太(翻訳),大川 良文(翻訳)
確か新聞の書評を読んですぐに買いともめたのですが長い間積読にしてしまい,ようやく昨年末に読み終えました.短くもないし簡単でもない経済学の本なのですが,専門家向けではなくてあくまで一般の読者を対象にしているので,私のような経済学の素養がない人間でも問題なく読み進めることができました.
結論から言うと,この本は名著です.主張していることは極めてまともな良識的なもので,言わば中庸の美徳を勧めるものです.本のカバーにも趣旨がでかでかと印刷されているので目を引くのですが,この本が主題とするのは, “民主主義„ と, “国家主権„ と, “グローバル化された経済„ はそもそも両立するのか?という問いです.
著者はこの主題に歴史から切り込みます.国家主権が無ければ,国家がその暴力装置と徴税権でお膳立てしてあげなければ,自由主義経済は成り立たなかった,という実例をたくさん紹介します.そして,最終的には行き過ぎたグローバリゼーションを諦め,制限付きのグローバリゼーションで我慢しましょうと結論付けます.もちろん,その場合には民主主義と国家主権は十分に残したままで.
この結論に反対する人がいるとすれば,その他大勢を犠牲にしてでも自分が富を独り占めしたい人でしょう.このような人が実際世の中に大勢いて,その人たちがうまく作り上げた仕組みに私たちも知らず知らずに加担している現実があるわけですが,それに対しても目を開けと言われているような気がします.
本書ではトービン税のような,お金の行き来に粘性(抵抗)を与える仕組みを示唆していますが,力学を学んだものとして大いに賛同できます.もう一つこのような粘性を与えるべきものに,インターネット上の情報のやり取りがあります.電子メールに超低率で課金するだけでスパムメールは激減することでしょう.何でもタダで自由にすれば良いというものではないという実例は世の中にたくさんあり,経済活動もその例外ではないという極めてまっとうな結論に清々しさを感じるのは私だけではないでしょう.
実はこのトリレンマには強烈な既視感があります.実はもう10年ほど前にシナリオ・プランニングの最高峰である “Shell Global Scenarios to 2025” が提唱したトリレンマと全く同じだからです.恐るべき洞察,恐るべき先行観だったと思います.このシナリオでは三つの概念は両立できず,それぞれの社会はそれをある一定割合で妥協させた状態にならざるを得ない,と結論付けます.同じだなぁ!
ちなみにその数年後に出された “Shell Global Scenario to 2050„ はこちら.Royal Dutch Shell という会社の奥の深さには恐ろしさを感じるほどです.
いずれにせよ,極めてまともで誠意のある結論がうれしくなる本です.全ての人にお勧めします.
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