やはり名作,買いは映像美
あの子を探して [DVD] - ウェイ・ミンジ(出演),チャン・ホエクー(出演)
長い間,観なければと思っていながら観ていなかった作品です.しかし観始めてみると,ストーリの流れを追うよりも前に,これはレベルの高い作品であることがわかります.
直ちに感じたのは映像美です.中国の乾燥地帯,黄土高原でしょうか,彩度を適度に抑えた緻密な映像に胸ぐらを掴み取られます.特に屋内の撮影での照明が見事.この映画が撮られたのは1999年.この頃の中国でこの映像の美学があったとは驚き.後の韓国のテレビドラマの照明のひどさにを知ったうえでこの作品を見ると,当時の中国に照明の美学がすでにしっかりとあったことに驚かされます.監督のチャン・イーモウは手練れの映画監督として世界的にも有名な人ですが,撮影した人,映像の責任者は誰だったのでしょう?彩度の調整があまりに見事.
ストーリーはそれほど凝ったものではありません.代用教員のウェイが失踪した生徒を探したいという一途な思いが,たとえそれが代用教員の報酬の条件と当初は関係があったとしても,執拗なまでに描かれていて,この映画の主軸となっています.一方,代用教員のウェイが生徒や村長や街の人たちと交わすやり取りは,自らの利益を最大限に主張しあう中国の,というより日本以外の世界の標準を嫌というほど思い知らされます.
素人の役者をどれくらいの期間訓練して撮影に臨んだのか,主役も脇役も非常に自然な演技で,演出の出来には驚かされます.特に主演のウェイを演じた少女の表情の演出はなかなか見事です.過剰でもなく過少でもなく,一見無表情に近い演出にも見えるのですが,少女の内面がじわじわとにじみ出てくるレベルに持ってくることができた演出は大したものです.
出稼ぎの請け元から逃げたホエクーが,空腹のあまり飲食店の客席をうろつくのを見かねた店主が,食事と職を与えたエピソードは,ストーリー終盤の一服の清涼剤となっています.と同時に,代用教員のウェイが,飲食店のテーブルの丼の残り物を貪るシーンも印象的です.このような光景は,中国大陸でも,日本の街中でも,以前は見られた光景だったはずです.
クライマックスは何といっても,代用教員のウェイがテレビ番組の中で涙ぐみながらホエクーの所在を求めるシーン.そしてそのテレビの画面を雇われ先の飲食店で見て感極まるホエクーの表情.非常によくできていて,何テーク目で監督のOKが出たのかはわかりませんが,見事なものです.
チャン・イーモウ監督のファンであれば,当然観ておくべき作品.お勧めです.
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