IOC List v8.2 Released
IOC World Bird List v8.2 が2018年6月25日にリリースされました.これは昨年秋に改訂周期が6か月に変更されて2回目のリリースで,年内にはもうこれ以上のリリースはないはずです.前回 v8.1 のリリースが2018年1月25日だったので,今回は5か月の更新間隔となっており,予定よりも1か月ほど早くリリースされました.理由は不明ですが,7月に大きなイベントが予定されていて,それとの重複を避ける意図があるのかもしれません.
今回収録されたのは目が 40,科が 246,属が 2,313,現生種が 10,711,絶滅種が 158,亜種が 20,055 です.前回同様,上目 (Superorder) の PALEOGNATHAE(古顎類),NEOGNATHAE(新顎類)や,系統群であるNEOAVES がリストの最上位の階層にこっそりと載っています.
今回は日本のバーダーにとっての注目すべき変更がいくつもあります.
一つはカササギについてです.カササギの分類については今でも議論が続いているそうですが,今回 IOC は,従来 Pica pica の一亜種であった Pica pica serica を種に格上げして Pica serica とし,Oriental Magpie と名付けました.これはユーラシア大陸のカササギ類の mtDNA 分析が進んだことによるものらしく,これ以外にも Pica mauritanica,Pica asirensis,Pica bottanensis が亜種から種に格上げされています.
日本鳥学会の日本鳥類目録改訂第7版では Pica pica serica は「亜種カササギ」とされているのですが,IOC に則るともう亜種とは呼べなくなります.そこで従来カササギの別名とされてきた「コウライガラス」という和名を充てることにしました.日本中心に考えれば「カササギ」を Pica serica に与えて,Pica pica には新たに別の名前を与えても良かったのですが, “カササギ = Pica Pica” という関係は長らく親しまれてきたので,これを崩すのは忍びない,またカササギという和名には,必ずしも朝鮮半島由来のカササギだけではなく,ヨーロッパなどに生息するカササギも含まれると理解されていると思い,“カササギ = Pica Pica” の関係には手を付けませんでした.
一方,日本ではカササギは特定の地域でしか見られない鳥であり,その呼び方がコウライガラスに替わったとしても世の中全体に対する影響は小さく,日本のカササギが朝鮮半島との関係が深いことが良く知られていることなどから,従来別名とされてきた一つの名前を異動させるほうが良いと判断しました.これはあくまで私個人の意見ですが,このあたりの和名の付け替えは毎回非常に悩ましいところです.
さらに,チョウセンウグイスの異動はもっと複雑で厄介です.日本鳥類目録では Cettia diphone を Japanese Bush Warbler ウグイス,C. d. borealis を亜種チョウセンウグイスとしています.一方 IOC では属名を Horornis とし,H. diaphone を Japanese Bush Warbler ウグイスとしているところまでは良いのですが,H. borealis という「種」を Machurian Bush Warbler チョウセンウグイスとしてきました.そして厄介なことに H. diphone canturians という diaphone の「亜種」もありました.
ところが今回 v8.2 では,
New genetic data support original split of Manchurian Bush Warbler, including canturians and borealis from H. diphone (Rasmussen & Anderton 2005, BLI, Kennerley & Pearson, 2010, Alstr"om et al. unpubl). Epithet canturians has priority over borealis as the species epithet.というコメントが付いて,H. borealis と H. diaphone canturians が合併し,H. canturians という「種」が誕生したのです.英名はそのまま Machurian Bush Warbler です.そして borealis はどこへ行ったかというと,H. canturians borealis という亜種になってしまいました.この種に対応する和名は当然チョウセンウグイスしかありません.しかし,日本鳥類目録とは属名も種小名も異なる名前になってしまったので,しばらく混乱が発生するのではないかと心配しています.このあたりは,Wikipedia の記事を読んでもわかる通り,系統の研究がもう少し進まないと,何とも言えない部分が残ります.今回の改訂も暫定的と考えておいたほうが良いかもしれません.
さらにさらに,数が多すぎるので詳細は書けませんが,サンショウクイの仲間が大量に異動していたり,センニュウ,ムシクイ類も大量に異動しているので,ここでも混乱が発生しそうです.特に属名が変更になるのは混乱の元です.
このような変更には私たちが順化していくしかないのですが,それよりも大きな速度で研究が進み変更が要請されていくので,ついていくのが大変です.学問の進展と社会的受容性の関係のような大げさな話にも発展する話題だと思います.私はかねてより,「分類」とは便宜であり,進化の過程で獲得された適応認識行動だという説を唱えているのですが,その考え方に沿うと,人類という集団の中には多様な便宜の尺度があり,適応速度にも差異があると言えるのではないかと思います.
IOC 本家の Master List を編集して,Refsort/Ruby 用の辞書ファイルを作りましたので,このブログサイトと,Microsoft One Drive 上に設けた “IOC List Archive„ にアップロードしました.
今回もこの辞書ファイルの正式なエンコーディングは UTF-8 です.従って,Linux 上で使う分には問題は生じませんが,Windows 上で使う際には,入力ファイルは UTF-8 でエンコードされ(辞書ファイルと入力ファイルのエンコーディングを揃える),かつ最初の行に
#!E -*- coding: UTF-8 -*-
というおまじないを書いておかないとエンコーディングの解釈がうまくいきませんのでご注意ください.
しかし,Windows 上でのデフォルトのエンコーディングである US-ASCII や Windows-31J でも手間なく使えるように,エンコーディング指定なしの汎用 US-ASCII 版もアップしておきます.これはどのようなプラットフォームであっても,そのプラットフォームのデフォルトの Locale が無条件で US-ASCII を解釈できることを利用したものです.ただし,欧文のアクセントやウムラウトを含む文字は,それらを含まない最も近い文字に置き換えられています.正版はあくまで UTF-8 なので,特に人名を含む種や,種の Authority を見るときにはご注意ください.
このオリジナル英語版の辞書ファイルに続いて,和名追加版2種と,IOC Master List の Excel ファイルに和名を追加したものも同時にリリースしました.和名追加版の辞書ファイルについても,UTF-8 でエンコードしてあるものが正版ですが,Windows などでの使い勝手を考慮して Windows-31J でエンコードしたものも同時にアップしてあります.ただし人名や地名のアクセントやウムラウトなどは,それらを含まない最も近い文字に置き換えてありますのでご注意ください.
和名追加版の辞書ファイルのうち,UTF-8 でエンコードしてある ioclist_v82ju.ref は,Linux などで UTF-8 でエンコードした入力ファイルをソートするときに使うことを想定しています.Linux 上で使う際には,入力ファイルの最初の行に上記のようなエンコーディング指定を書く必要はありませんが,Windows 上で使う場合には,入力ファイルは UTF-8 でエンコードされ(辞書ファイルと入力ファイルのエンコーディングを揃える),かつ入力ファイルの最初の行に
#!E -*- coding: UTF-8 -*-
というエンコーディングを指定しておく必要があります.
逆に,Windows 上で Shift-JIS や Windows-31J でエンコードされた入力ファイルを,Windows-31J でエンコードされた辞書ファイル ioclist_v82jw.ref を用いてソートする際には,入力ファイルの冒頭にエンコーディングの指定は必要ありませんが,この辞書ファイルを Linux 上で使う場合には,入力ファイルは Windows-31J でエンコードされ(辞書ファイルと入力ファイルのエンコーディングを揃える),かつ入力ファイルの冒頭に
#!E -*- coding: Windows-31J -*-
とエンコーディングを指定しておく必要があります.要するに,どのような場合でも辞書ファイルと入力ファイルのエンコーディングを揃え,かつそれぞれの入力ファイルのエンコーディング指定を冒頭に書いておくのが無難です.
これらのファイルをダウンロードするには,従来通りこのブログの右側のコラムで “自作ソフト„ の中から個々のファイルをクリックしても良いのですが,前述のとおり,Microsoft One Drive 上に設けた IOC List 専用のフォルダからもダウンロードできます.それには,このブログ右側のコラムの最上段の “Archive„ の中の “IOC List Archive„ をクリックしてください.そうすると One Drive のフォルダに入ることができますので,あとは適当に選んでダウンロードしてください.今後は One Drive のみに集約していく予定です.
I am pleased to announce that I have posted reference files for Refsort/Ruby compiled directly from the latest IOC World Bird List v8.2. It contains 10,711 extant species, 158 extinct species and 20,055 subspecies, respectively. Please try it out, and enjoy its capability and speed.
Note that the reference file "ioclist_v82u.ref" is encoded in UTF-8 in order to retain all European accents and umlauts with complete fidelity as they are in the IOC Master List. Therefore, your input file should be encoded in UTF-8 as well, and should contain a magic comment on the top of the file such as;
#!E -*- coding: UTF-8 -*-
For those who want to use Refsort/Ruby in universal ASCII environments, I have posted another reference file "ioclist_v82a.ref" encoded in pure US-ASCII. Note that characters with accents and umlauts have been simplified to their nearest neighbors. So please be careful in particular when you refer to authorities of species.
I have also posted two reference files “ioclist_v82ju.ref” and “ioclist_v82jw.ref” (encoded in UTF-8 and Windows-31J, respectively) which include Japanese names. If you want to refer to Japanese names, please see those files. In order to sort a list properly using these reference files, you need to align the encoding of the input file to that of the reference file, and you should add a magic comment specifying the encoding of the input file in the first line of the file, such as UTF-8, US-ASCII or Windows-31J.
A master list in an Excel format containing a column of Japanese names has been posted as well. This would be more convenient.
You can download an appropriate file by clicking a link listed on the right column of this page, but you can also access files and folders built in my area of Microsoft One Drive by clicking “IOC List Archive„.
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