山猫
山猫 4K修復版 [Blu-ray] - バート・ランカスター(出演),アラン・ドロン(出演)
映画のレビューを書くのは1年ぶりです.レビューを書くだけの気力が無かったというのが正直なところです. “山猫” というこの長編映画を観たのはこれで2度目.今回はイタリア語・完全復元版ということで,前回観た時にはなかったシーンが含まれていたように思いますが,とにかく前回観た時の印象は舞踏会のシーン以外かなり薄れているので,今回の鑑賞を中心にレビューしたいと思います.
この映画の本質を私なりの解釈で要約すると,時代の流れで没落することが運命づけられたシチリアの由緒ある貴族が,その慧眼で時代の流れを深く悟った上で,時流に乗ることで没落を逃れようとはせず,あえて古風な価値観としきたりに従って「正しく」没落することを選ぶ,その悟りと没落の美学を美しい映像で描いた叙事詩,だと思います.しかも,俗物だが時流に乗ることに長けた甥には,わざわざ新興勢力の市長の娘との縁談を用意してやるという気配りまで見せます.
この本質は,映画の後半,有名な舞踏会のシーンの直前,政府からの使者が貴族院議員への就任を要請し,それを断るときの見事な対話のシーンに表れています.このシーンこそこの映画の白眉であり,その後の延々と続く美しい舞踏会のシーン,ロウソクのみの照明にこだわったあまり,出演者は汗を拭き拭き演技せざるを得なかったという有名な数10分は,没落直前の貴族社会の輝きを最大限演出するための監督のサービスに過ぎません.
荒涼としたシチリアの風景,砂埃が舞う道路,そしてローマ時代から支配者が入れ替わることが続いた歴史の重み,そのような背景をたっぷりと見せたうえで,考証を重ねたであろう豪華な調度と衣装で豊かな貴族の世界を垣間見せます.この映像美はヴィスコンティならではのもの.
しかし意外にもアメリカ人とフランス人の俳優を中心に据え,イタリア語のセリフは吹き替えで済ますという思い切りの良さはどうしたことでしょう?私が解せないのはこの配役です.なぜイタリア人を使わなかったのか?せめて地中海世界の俳優を使うべきではなかったのか?なぜバート・ランカスターと,フランスではそれほど人気のないアラン・ドロンを使ったのか?これは今でも疑問に思う点です.
もちろん,バート・ランカスターの演技は見事で文句を言う筋合いではありませんが,しかし違和感が残るのは正直に告白せねばなりません.では誰だったら良いのかと問われても,当時の俳優群を知っているわけでもないので,答えることはできません.困りましたね.
全編で3時間を超える大作なので,一気通貫で観る人は少ないかもしれませんが,やはり見ごたえはあります.ヴィスコンティの映像美へのこだわりには感動させられます.高解像度の大型画面で観ると,いかに金をかけた映画かがよくわかると思います.歴史に残る大作の一つであることは間違いありません.超おすすめです.
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