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2018/09/16

引退して味わう特殊相対性理論

高校数学でわかる相対性理論(ブルーバックス)[新書] - 竹内 淳(著)

今から5年前にもこのブログで紹介した本です.その時は,双子のパラドックスが理解できたような気がしていたのですが,ローレンツ変換がまだ身に付いていないことは感じていましたし,コンプトン散乱はさっと読んだだけだったので消化不良を感じていました.その時のブログには

私はとりあえず通勤電車の中でさっと読んだだけなので,定年後にもう一度机の上でノートを取りながら,じっくりと読み直してみようと思います.
と書いていました.あれから5年の歳月が流れ,とうとうその時がやって来ました.自分に対する約束を違えることなく,このためにわざわざA4版のノートを買ってきて,ノートで数式を追いかけながらこの特殊相対性理論を読み進めました.

早速ローレンツ変換に取り掛かりました.線形変換であるという前提条件は非常に強力で,非常に簡単に変換形が求まります.ただしこれは光の波面について計算したもの.これがそれぞれの慣性系の時空間そのものであるとは言えないというところで引っ掛かりましたが,慣性系に紐づいた時空の座標の変換公式だと思えば,これで良いようにも思えてきました.ローレンツ収縮や時間の遅れなどもすんなりと頭に入りましたし,ミンコフスキー空間やその上でのダイヤグラムを使った計算もちゃんと理解したと思います.ローレンツ収縮は二つの慣性系で同時の概念が崩れていることから来ることが,ミンコフスキー空間を使うと良くわかります.

最大のヤマは前回と同様双子のパラドックスです.ここはやはり固有時の出番.固有時は非常に強力な道具だということを改めて実感しました.さらに前回は気づかず今回初めて悟ったのは,兄は二つの異なる慣性系を乗り継いで地球に帰って来るということ.反転して地球に戻ってくるときに速度の合成を相対論的に計算する必要があることに初めて気付きました.固有時を使わないとこれらの慣性系の乗り換えを組み合わせた時間の計算が大変です.でもやはり直感と合わせることは難しかった.その理由は,ここでも同時の概念が一致しないからだと思います.地球と宇宙船のそれぞれで相手の時刻を観察しても,それは同時ではないのです.

コンプトン散乱は,光子と電子の弾性衝突の問題なのですが,光量子のエネルギーと運動量の公式さえ受け入れられれば,あとは単なる弾性衝突の計算なので,完全に理解することができました.また,この本の最大の功績であるマクスウェル方程式のローレンツ変換は,実際に手を動かして計算してみると実によくわかります.ローレンツ力は電荷の運動に伴う相対論的な見かけの力だという説明が実にすんなりと頭に入り,マクスウェル方程式が最初からローレンツ変換に対して不変な形で導出されていたことが奇跡のようにも思えてきました.

四元ベクトルやテンソルの説明は,前回も感じたように中途半端で,この本の説明範囲では不要だと思いますが,数学的な一般化や一般相対性理論への導入としては,この時点で読んでおくのも良いのかもしれません.

今回は自分の手を動かしながら全篇を読んだので,ようやく特殊相対性理論のエッセンスを理解できたような気がしています.しかし,量子力学ほどではありませんが,日常の常識とは相容れない現象も多く,特に同時性が成立しないということを受け容れるにはまだ時間がかかりそうです.

しかし,引退して時間がたっぷりあるということは素晴らしいです.次はやはり大学時代に悶々としていた熱力学を勉強しなおそうかと思っています.

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