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2019/08/06

イギリスの神髄を守る者たちの心のひだ

日の名残り [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray] - アンソニー・ホプキンス(出演),エマ・トンプソン(出演)

重厚な作品です.第1次世界大戦と第2次世界大戦のはざまの時期に,ドイツに融和的なイギリスの貴族に使えた執事と使用人たちの物語.日本にはこのような職種に就いている人は極めて少数なのでなじみが薄く,執事や使用人たちの仕事の内容や日常生活を垣間見るという意味でも楽しめました.

原作者は日系イギリス人のカズオ・イシグロ.つい最近ノーベル文学賞を受賞したということで,作品の評価も高まったことでしょう.

物語は回想形式で始まります.第2次世界大戦後に,かつて仕えた貴族の屋敷が売りに出され,それをアメリカ人の富豪が買って暮らし始めます.新しい主人への仕え方に悩んでいた時,主人から休暇をもらい,かつての女中頭(ハウスキーパー)を訪ねるという風に物語は始まります.そこから1930年代の回想シーンへ話が飛んでいきます.

イギリス貴族の暮らしぶりを忠実に描いているのだと思いますが,その重厚さがよく表現されています.特に賓客を招いて外交問題を議論する会議を行うときの舞台裏を描くことで,貴族の館を運営するとはどういうことかがよく理解できるようになっています.これは原作のおかげか?それとも演出のおかげか?仕える主人への忠誠,執事としての矜持と誇り,豪華なお屋敷と調度品,古き良き時代のイギリスの神髄を見ることができます.本当にこういう世界があったのですね.

使用人たちも人間なので,それぞれの事情があり,考え方があり,人生があります.それを主人の側とどのように折り合いをつけていくのか,みな頭を悩ませながら生きていかなければなりません.しかしこの執事は,自らの内面を顔に出すことはなく,仕事の同僚である自分の父親が屋敷内で息を引き取ったときですら接客を優先したのでした.淡い恋心を抱いていた女中頭から他の男と結婚するので辞めたいといわれた時にも,儀礼的な挨拶をするのみ.しかし内心どうだったのだろうと観る者が思わずにはいられない,そういう演技や演出がこの映画の見どころです.

主演のアンソニー・ホプキンズはまさに適役.この重厚な執事の役を見事に演じました.仕事への献身ぶりを全身で演じたところは見事としか言いようがありません.メソッド演技法に批判的なホプキンズが,それによらずにどのような演技を行えるのか,この作品をじっくりと鑑賞するとよいでしょう.また,この人の演技は表情の作り方が独特ですが,同等レベルの演者としてはメソッド演技法の実現者であるジャック・ニコルソンがあげられると思います.この二人の演技を比較してみることは非常に興味深いです.

エマ・トンプソンも大変良かった.気配りができてちょっと気の強いベテランの女中頭を大変うまく演じました.「いつか晴れた日に」で共演したケイト・ウィンスレットが出演者に入っていてもよかったと思いますが,ちょっと贅沢すぎるか.若いころのヒュー・グラントが軽めの脇役で出ているのですが,よく観ないと本人とはわかりませんでした.あとジュディ・デンチが出てくれば,もう言うことはなかったですね.

映画が大変良かったので,原作を読んでみようと思っています.

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