« アオツヅラフジが豊作 | トップページ | Refsort/Ruby v2.98 Released »

2019/10/31

ついに読了!一般相対性理論

一般相対性理論を一歩一歩数式で理解する - 石井 俊全(著)

仕事を引退後,学生時代に挫折した学問の学び直しを始めたことをお伝えし,昨年夏に特殊相対性理論を勉強したことを報告し,今年前半には熱力学を学びなおしたことを報告,と進んできたのですが,本格的な教科書を通読した熱力学が思いのほか苦しまず楽しかったので,余勢を駆って長年の夢と憧れであった一般相対性理論を学んでみようと思い立ちました.

もちろんこれには伏線があって,つい最近,まるで学習参考書のように懇切丁寧に数式を追って独習できる本が出版されたばかりだったのです.それが今回紹介するこの本です.著者は理論物理学の専門家ではないのですが,非常に幅広く数理科学を学んで理解したうえで,その内容を一般の人が学びやすい学習書として再構成することが得意なようで,すでにガロア理論に関する学習書が先行して出版されています.熱力学を読み終わった直後の大学の同期会で,この本を読み進めているという人がいたことも背中を押してくれました.

学習参考書なので,専門書のように数式展開をさらりと省略したりせず,本当に学習参考書並みに丁寧に式変形の過程を赤字を交えて追うことができるようになっています.これだけでもすごいと思うのですが,もっと感心したのは,後々必要になる定理や法則を,必要最小限の範囲ではあるのですが,事前に用意周到に伏線を張って準備しておくという構成になっています.そのために仕方のないことですが,この本は700ページ近い分量になっており,まるでアメリカの大学の教科書なみです.もっとも,昔から有名な重力理論の定番教科書 “Gravitation” は1,280ページとさらに2倍もの分量があるので,上には上があります.

従って,この本はベクトル演算から始まり,大学教養課程で習う程度のベクトル解析のエッセンス,そして難関の一つであるテンソルの導入,さらにテンソル場への応用に進むという具合に進みます.ここでは特に座標変換に対して不変なテンソルとは何かを繰り返し学べるように配慮されています.

途中,電磁気学のマクスウェル方程式特殊相対性理論も学び,ローレンツ共変性四元化の概念,ローレンツ変換という座標変換に対して不変な物理法則とはどうあるべきかも理解できるようになっています.

その後もう一つの難関であるリーマン幾何学へと突入します.この辺りになると,頭の中にイメージを作ることがだんだん難しくなってきて,クリストッフェル記号や計量テンソルがずらずら並んだ式を見ると,拒否反応が出てきて苦しむのですが,ここを何とか乗り越えるとようやく一般相対性理論に入ることができます.

とまあ,こんな具合なのですが,私は6月10日に読み始め,10月31日に読了しました.この間,A4判のノートを4冊費やし,すべての数式を自分で展開していったのは言うまでもありません.もちろん,途中で疑問に思うことや十分に理解できなかった個所は何十か所もあります.その場合,本にもノートにも大きな疑問符を付けてマークしてあるのですが,本当に深刻な疑問は起きなかったように思います.これは著者の懇切丁寧な準備によるものでしょう.

強いて改善点を上げるとすると,一つはローレンツ変換の導入です.この著者は光速度一定の帰結であるローレンツ収縮の考察をもとにしてローレンツ変換へと一般化していくのですが,私にはわかりにくく,むしろ線形変換として天下り式にローレンツ変換の係数を求めるほうがすっきりすると感じました.またミンコフスキー図の使用例が少ないことも気にかかりました.もっと多用して線形変換であるローレンツ変換に慣れたほうが良いように思います.相対論のキモである固有時もミンコフスキー図で見たほうがわかりやすいのでは?と思いました.

もう一つの改善点は計量テンソルの扱いです.まずテンソルの添え字の上げ下げのツールとして g_{ij} や g^{ij} というテンソルが導入されるのですが,それが線素の計算に必要な計量テンソルに自然につながることを丁寧に示したほしかった.これは未だに未消化の部分です.この辺り,数学寄りのテンソルの定義から始めて,物理寄りのテンソル場へ移行する過程がもう一工夫必要ではないかと思います.

さらに,アインシュタインの重力場方程式を天下り式に導入してしまうのですが,ここはアインシュタインが何年間も悩んだだけに難関です.なぜ右辺がエネルギー・運動量テンソルでよいのか?なぜ左辺は計量テンソルの1階微分の2次式と2階微分の1次式でよいのか,ひと通りの説明はしてあるのですが,正解がわかっているときの最短距離での説明に終始しているので,発想法としてついて行けませんでした.これはシュバルツシルト解や重力波方程式の導出においても同様で,解にたどり着くまでの発想と試行錯誤の跡を辿れるようにしてくれれば最高だと思いました.

とまれ,4か月半の間ほとんど毎日,この本と付き合って楽しんだことは確かです.テンソルやリーマン幾何学が何であるかもようやく理解できました.この本を足掛かりにして,もう少し深みのある専門書を読んでみたいとも思うのですが,書店で立ち読みした限りでは理論物理の秀才向けの本が多く,なかなか敷居が高そうです.

一方,この本ではほとんど紹介がなかったのですが,解析力学を学んでみたいとも思うようになりました.これは学生時代の勉強ではラグランジアンで終わってしまっており,ハミルトニアンが何であるかいまだにわかっていません.これを学べば量子力学が理解しやすくなると聞いていますし,アインシュタインの重力場方程式も素直に導出できるらしいので,次は少し方向を変えてみようかと画策中です.

仕事を引退して十分な時間が持てるようになって,何をやるかは人それぞれだと思いますが,このような学び直しはほとんどお金がかからず,得られる喜びと満足感は他の何物にも代えがたいものがあります.他の趣味の邪魔にもなりません.頭が働くうちはこれからも続けていこうと思っています.学び直しはまだまだ続きます.

| |

« アオツヅラフジが豊作 | トップページ | Refsort/Ruby v2.98 Released »

学問・資格」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

科学」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« アオツヅラフジが豊作 | トップページ | Refsort/Ruby v2.98 Released »