フライトシミュレーターマニア必見
ハドソン川の奇跡 [Blu-ray] - トム・ハンクス(出演),アーロン・エッカート(出演), クリント・イーストウッド(監督)
久々に映画のレビューです.ひところより観る本数は減ったものの,今でも年に50本程度は観ているのですが,ここでレビューしたくなるほどの作品にはなかなかお目にかかれないので,レビューの回数が極端に減っていました.
今回は最近の有名な実話を映画化したもので,CG 使ったアクション,映画のために購入した実機と,実際に救助に参加した人たちを動員したリアルな救出劇はあるものの,全体としては主人公の心理的葛藤を描いた密室劇に近い演出と言ってよいでしょう.ストーリーは爽快に終わり,かつエンドロールに素敵な仕掛けがしてあるのが見どころです.
真冬のニューヨーク.ラガーディア空港を離陸直後の旅客機エアバス A320-214 がカナダガンの群れに遭遇し,バードストライクによって両エンジンとも損傷・停止.ラガーディア空港に引き返そうとしますが,高度が低く,推力を失ったエンジンで滑空を続けていては着陸できないととっさに判断した機長は,ハドソン川への不時着水を試み,これが見事成功します.
一躍英雄になったものの,安全運輸委員会は,空港に引き返せたのに機長が誤った判断をして乗客と機体を危険に晒したと憶測し,コンピュータシミュレーションや,飛行シミュレーターでの着陸成功の結果を引っ提げてネチネチと攻めてきます.さあ,どうなる?
最近の実話なので主人公の風貌も実話の本人に近づけてあるようで,主演のトム・ハンクスが白髪のパイロットだったのには驚きました.映画前半は,事故直後にホテルに缶詰めにされた機長の心理的葛藤と過去の回顧が交互に繰り返されるのですが,この部分はあまり良くありません.ストーリーラインをもっとすっきりさせてほしかった.
後半は大人数を前にした公聴会ですが,ここが大変面白いこの映画のハイライトです.エアバス社のシミュレーターで何度も着陸を試みさせます.このシミュレーターは本物だと思いますが,最近のジェット旅客機のコックピット,フライトコントロールシステム,パイロット支援システムがどのようになっているのか,よくわかります.高度が下がりすぎると "Pull up" と妙に冷静な声で何度も警告が出るのが印象的でした.
最後はパイロットの直感が正しかったことが証明されて,めでたしとなるのですが,実話では安全運輸委員会が早々にパイロットの判断を支持していたそうです.これはパイロットや航空機に関わる人口が非常の多いアメリカならでは,現場のことを良く知っている人たちが調査に関わっていたということでしょう.実際35秒の遅延時間を入れたシミュレーターフライトが行われて,飛行場に引き返していたら墜落,それも下手をすると市街地に激突という結論を得ていたそうです.これは劇中でもそのまま再現されました.
エンドロールが大変素敵です.事故機は博物館に移送されたのですが,それを記念して当時のパイロット,客室乗務員,そして乗客たちが機体の前で同窓会パーティをやっている様子が音声付きで披露されます.ここが本当に素晴らしい.監督クリント・イーストウッドの粋な演出です.
この映画を見ていると,発売されたばかりの新版の Microsoft Flight Simulator が欲しくなってしまいました.20年ほど前の旧版では,セスナをよたよたと着陸させるだけで精一杯だったのですが.
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