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2020/12/09

VTOL 型のドローン

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DJI-AgrasによるPixabayからの画像

ドローンというと,いまやマルチローター型ヘリコプターのことを連想させますが,本来の意味はもっと広く,例えば米軍が南アジアで運用中の無人偵察機 RQ-4 グローバルホークや無人攻撃機 MQ-9 リーパーもドローンの一種です.ちなみに最近ではテロ組織が安価な中国製民生用ドローンを使ってピンポイント爆撃を行う事例が増えているそうです.

ところで航空工学の立場から見ると,回転翼機であるマルチローター型のドローンは(ローターの翼面積があまりに小さいため)エネルギー効率が悪く,そのため滞空時間 duration も航続距離 range も非常に短いのが欠点です.

一方,空気力学的に効率の良い固定翼機は,離着陸に滑走路が必要,かつ空中静止や微速移動はできないので,狭い面積をゆっくりと見て回るとか,地形に追従して低空飛行を行うようなミッションには向きません.

これら二つの良いところを併せ持つ航空機は昔から開発されていて,それが垂直離着陸航空機 VTOL です.軍用機では古くはイギリスのターボジェット攻撃機ハリアー,最近ではアメリカのターボシャフト輸送機 V-22 オスプレイが有名です.VTOL の無人機版,すなわちティルトローターのドローンも当然開発されているはずですが,メディアで紹介されているのを見たことがありません.

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WikiImagesによるPixabayからの画像

一つには,推力方向を可変にするための機構が高コストで重量がかさむため,ある程度大型のドローンでなければ意味のある設計を構成できないことがあげられます.ペイロードが 0.5 トン前後はないと(ちなみに V-22 オスプレイの機内最大ペイロードは約 9 トン),ミッションに実用性を持たせることは難しいでしょう.さらにそのような大型の機体でならではのミッションが,軍用以外には開発されていないということもあるでしょう.

考えられる民生用ミッションとして,一つは遠隔地の災害現場への物資輸送があります.小型ドローンで偵察を行い,有人ヘリコプターで人命救助を行うとともに,VTOL 型ドローンで物資輸送を行うというような棲み分けが可能になります.有人ヘリは機材も運用も高コストなので,無人機でできるものはできるだけ無人機でやろうという考え方です.VTOL 型であればある程度の荒天でも運用可能でしょうから,小型マルチローター機とは次元の異なるミッションをこなせるはずです.

海難救助のための偵察機としては理想的なものになるでしょう.同時に複数の機体を飛ばして,広大な海域で面的な探索が可能になります.可視光画像だけではなく,赤外線画像や海面捜索用のレーダーも積んで運用することになります.

農業分野では種子や農薬の散布などがあります.欧米のような巨大な圃場では農家が自家用のドローンを持つことも考えられますし,日本でも農業法人や組合単位で保有することが不可能ではない程度の価格に仕上げる必要があります.

エンジンはコストとメンテナンスを考えるとレシプロエンジンになると思いますが,ローター周りとティルト機構のメンテナンスは悩みの種になるでしょう.ここをいかにメンテナンスフリーにできるかで,実現可能性の高低が決まるような気がします.

いっそのことリチウムイオン電池を積んだ電動式にすることも考えられますが,電池と充電設備のコストを考えると,時期尚早だろうと思います.

考え始めたばかりで,まだまだ漏れや抜けがたくさんあるのですが,こういう構想を温めていくのは大変楽しいものです.

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コメント

自己レスです.

Web を探してみるといろいろな試作機が見つかったのですが,いずれも私の想定よりは非常に小型です.よほど少量,軽量の物資でないと輸送は難しいと感じました.

中には VTOL 用のロータ−と水平飛行用のローターを別々に積んでいるものもあるのですが,水平飛行時に VTOL 用のローターの抵抗が大きいので,高速飛行には向かないと思います.ミッションの現場からそう遠くないところから離発着する必要があります.

見た中では,DHL が開発中の 宅配便配達用 VTOL はよくできていますが,明らかに短距離用です.

さらにローターをティルトせずに機体そのものの姿勢を変化させて VTOL を実現しているものが興味深かったのですが,ほとんど無尾翼機そのものなので,縦の安定性がやや心配.

でも,いろいろなアイデアがあって面白いです.

投稿: 俊(とし) | 2020/12/09 16:05

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