日本が難民に冷たい理由は?
世界で紛争が起こり難民が発生するたび,日本がその受け入れに冷淡だということが言われます.いろいろな統計数値を見てもその傾向は顕著で,例えばドイツが受け入れている難民の数よりも 3 桁から 4 桁少ない数しか日本は受け入れていません.申請者の大部分が偽装難民という問題があるにしても,それは他国も同じはずで,この差はあまりにも極端です.
さらに出入国在留管理庁の収容所に拘留されていたスリランカ人女性が,適切な治療がされないまま病死するという事件も起きています.担当した刑務官たちは処罰されるべきですが,これは単に彼らの職務能力が低かったという問題ではないような気がします.
日本は島国なので国境を越えて難民が押し寄せて来るというイベントを経験していません.また自分たちも,戦争が起きたからといって海を渡って他国に逃れるという行動をとったことがありません.(*ただしこれに準ずるイベントとして,第 2 次世界大戦後に外地の日本人が日本に引き揚げてきたことはあります.軍人・軍属が 350 万人,一般人が 300 万人という膨大な数です.帰るべき土地や家がある家族はよかったでしょうが,それが無かった家族は祖国に帰国できても難民同然でした.)
おそらく,日本人は自分自身が難民になって他国をさまよい歩く可能性があるとは考えていないのだと思います.難民の報道を見ても明日は我が身という発想が起きないのでしょう.中東やアフリカや南アジアで大規模な紛争が起こって大量の難民が発生しても,そんなことが自分たちに起きるはずはないと決めてかかっているのです.だから難民に対しても冷淡な態度が取れるのだろうと思います.
その固定観念を最初に破って見せたのは小松左京の小説「日本沈没」でした.皇室はスイスへ避難,数千万人の国民が世界中に分散して難民と化していくのです.イベントは現実にはあり得ないような地殻変動でしたが,イベントの種類は何でもよいのです.例えば,日本のどこかで Aso-4 クラスのカルデラ噴火が起きれば,日本の半分以上の面積に数百年間人が住めなくなります.どこかの原発がミサイルで破壊されると,ひとつの県程度の面積に 200 年以上人が立ち入ることはできなくなります.これらは十分に現実的な想定と考えておくべきです.そんなことはあり得ないと思う人は,原発を壊すような津波なんてあり得ないと考えていた当時の東電幹部と同類で,安全保障に対する想像力が欠如しています.
日本人が日本という島に住んでいられなくなったらどうするか?という問いに対して,想像力を欠いたまま統治と生活が行われていることが,難民に対する態度の背景にあると思います.自分が難民になることがあるかもしれないと思っていれば,難民に対して今とは異なる対応ができるはずです.明日は我が身だからです.明日の自分を助けると思って,今日の他人を助けるのです.そうすることで国境を越えた助け合いの精神は厚みを増していきます.そのような発想を日本人も持ってほしいと思います.
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