« ツクシがニョキニョキ | トップページ | 満開のソメイヨシノ »

2022/03/30

エネサーブの教訓

資源エネルギー庁はエネサーブの教訓を知ったうえで,電力自由化の制度設計をしたのでしょうか?

エネサーブは A 重油を燃料としたオンサイト発電サービス事業で業績を急成長させ,特に燃料調達サービスも含めた形で,一般電力よりも低廉な電力を自家発電で賄いたい顧客を増やしていきました.当時は例によって日経 BP などでも持てはやされたほどです.しかし燃料調達は国際原油市場につながるその道のプロだけの世界.エネサーブは 2006 年ころから石油の市場価格の高騰に苦しみ,結局は自家発電サービス事業から撤退してリストラ.上場を廃止し,現在は大和ハウス工業の完全子会社となっています.

資源価格は変動する,それも時として百パーセント以上も変動するというのは市場の常識.私たちは数次にわたる石油ショックで身に染みて分かっていたはずです.それなのに,

  1. 自前の電源や変電・蓄電設備を持たずに,
  2. 余剰電力が市場に十分にあるという前提で,
  3. ブローカーや需要家のアグリゲーターとして鞘を取るだけ,

という新電力の事業モデルは,燃料価格の市場変動をサービス価格に迅速に反映させる契約 (SLA) をしているところはまだ良いのですが,固定価格や価格反映への時定数が長い契約だと市場変動に対して脆弱です.

しかも,原子力発電が部分的にしか再開できておらず,化石燃料を忌避する傾向から既存火力の保守や追加投資が不十分な現況では,余剰電力が十分ではないので,仕入れ価格は高騰しがち.また太陽光などの再生可能エネルギーは不確実性が非常に大きいので,よほど広域の電源を束ねることができない限り高いインバランス・リスクに晒され,かつ託送料金も必要なため,逆ザヤとなって採算が取れません.

これらが如実に現れたのは2022 年 3 月 16 日の福島県沖地震による停電と,その翌週 3 月 22 日に東電管内で大規模停電寸前まで予備率が低下した事象でした.このとき,電源を持たないすべての新電力は,高騰した JEPX から仕入れるなどして契約義務を果たさざるを得なかったはずです.

今年に入って,原油価格の高騰を料金に反映できない新電力が雪崩を打ったように事業撤退を始めています.しかし需要家の立場からは新電力から一般電力への切り替えが簡単にできるとは限らず,例えば北陸電力は新規受付を停止している(福井新聞の記事はこちら)ようです.それも理由の一つとなって廃業を考えざるを得ない需要家が出ている(同じく福井新聞の記事はこちら)とか.こんな記事もあります.

エネルギー供給事業の特性をわきまえずに,裁定取引で甘い汁が吸えると考えて参入した事業者が淘汰されていくのは良い事ですが,それで需要家が路頭に迷うようでは制度設計がボロだったと言わざるを得ません.エライ人たちが委員会で議論した結末がこのような有り様なので,資源エネルギー庁は大いに反省したうえで,前提条件を修正して制度を作り直す必要があると思います.ポイントは,供給制約,取引コスト,完全に自由ではない市場,などです.

| |

« ツクシがニョキニョキ | トップページ | 満開のソメイヨシノ »

経済・政治・国際」カテゴリの記事

オピニオン」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« ツクシがニョキニョキ | トップページ | 満開のソメイヨシノ »