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2022年7月

2022/07/31

ご新造さんがやって来た

猛暑でエアコンの効いた部屋に引き籠っています.こういう時はネットサーフィンをしていることが多いのですが,面白い記事を見つけました.

エアバス社の新しい機種 A350 XWB シリーズの一つ A350-900 を日本航空が導入したのですが,パイロットから見たときの操縦性を B737 と比較して書いてあるものです.パイロットはこの機体を日本までフェリー(納入時に飛ばせて運ぶ)した方なので,十分に信頼できます.

私はこの飛行機が日本にデモフライトに来ているときに羽田空港で見かけて,写真に撮り,このブログで紹介してます.もう 8 年も前のことでした.それから商談がまとまって何年もかかって機体が製造され,パイロットの訓練も行われ,2019 年から運用が始まったようです.日本航空では新造機と言ってアピールしていますが,ご新造さん(ええとこのお嫁さん)と洒落てもいいと思います.

B737_cockpitjpg

乗り物ニュースから転載

ボーイングの操縦システムは出来るだけ機体の生の特性をパイロットが感じ取れるようになっていて,機体のクセを知ったうえで人馬一体となって操縦しなさいという設計哲学に基づいているようです.操舵は昔ながらの回転ハンドル式の操縦桿です.

A350_cockpit

Wikipedia 記事から転載

これに対してエアバスの設計思想は,機体の裸の特性の上にソフトウェアの薄い衣服を一枚を被せて,人間が知覚しやすく操作しやすいように作られているように思います.操舵は戦闘機のようなサイドスティックで行うのも大きな違いです.

このパイロットの方によれば,スラストレバーの違いも大きいと言います.パソコンでフライトシミュレーターを楽しむ人たちは,これらの違いにも敏感なので,エアバス用のサイドスティックとスラストレバーが Amazon.co.jp などで売られています.ボーイングスタイルのヨークはこちら

どちらが良いかは私にはまったくわかりませんが,最新型の自動車でも,ハンドルこそ昔のままですが,変速機の操作は全く異なるものになっていたり,車線をはみ出そうすると急にハンドルが重くなってはみ出せないようになっていたりと,旅客機の操縦と似たところがあるのかなと思います.

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2022/07/30

ヤブデマリの実とセミの抜け殻

毎日暑い日が続いていますが,まだようやく七月が終わろうとしているところ.あとひと月以上経たないと涼しくならないと思うと,本当に嫌になってきます.

Takasakiforest_jul2022_0007m

今日は朝から蒸し暑かったのですが,家人に付き合って近くの森林公園を散歩.ヤマユリの花はほとんど終わっていて,あまり見るべきものはなかったのですが,ヤブデマリの赤い実が大変印象的でした.

Takasakiforest_jul2022_0003m

サクラの木の幹にはたくさんのセミの抜け殻が付いており,近くの地面にはセミの幼虫が出てきた穴がボコボコ.夏はこれからが本番のようです.

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2022/07/25

火山が一番恐ろしい

桜島が爆発的噴火をしたそうです.避難した住民たちは一晩中眠れなかったそうです.きっと怖かったでしょう.何しろ何トンもあるような噴石が 2 km 先まで飛んでくるような噴火です.風向きが悪ければ火山灰も降ってきます.ろくなことはありません.

桜島は常時活発な活動を続けている日本でも有数の火山.常時噴火を繰り返して火山灰を降らせるので,鹿児島市では昭和の頃から衣類乾燥機の普及率がダントツで日本一.さらに鹿児島市では道路に積もった火山灰をかき集めて収集する専用車両も多数用意してあるそうです.富士山の降灰が予想される地域にそのような用意はあるでしょうか?

私は阿蘇山からそう遠くないところで生まれ育ったので,火山の怖さや有難みはある程度分かっているつもりです.小学校の同級生には阿蘇山の噴火で父親を亡くした子供もいました.

私は数ある自然災害の中で,火山はダントツに破壊的で長期の悪影響をもたらす災害だと確信しています.どんなに大きな地震や津波でも,どんなに強大な台風でも,火山の破壊力に比べれば大したことはありません.せいぜい 100 年も経てば自然も人々の生活や社会も復旧されるはずです.しかし火山はそうはいきません.発生頻度は小さくてもその破壊力はすさまじいからです.

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Image by Pexels from Pixabay

桜島は姶良カルデラという海底カルデラに含まれる火山ですが,このカルデラは 2.5 万年前にこの火山が大噴火 (A-Ito) した名残りです.このときの軽石が神奈川県の丹沢山塊で見つかっています.想像できますか?鹿児島では数 10 m も積もった火山灰がシラスとして知られています.

その後つい最近 7,300 年前に,薩摩半島の南 50 km にあった火山が超巨大噴火を起こして鬼界カルデラを形成しました.現在の薩摩硫黄島と竹島がその外輪山の一部.過去 1 万年以内では世界最大規模の噴火と言われており,九州南部の縄文文化を壊滅させたと言われています.火砕流で直接死亡する以外にも,堆積物によって農耕や狩猟採集が出来なくなり,他所へ移り住んだとも考えられます.

実は阿蘇山の巨大カルデラ噴火 Aso-4 はこれらよりだいぶ前で 9 万年ほど前.現生人類が日本列島に住み着く前だったと思われますが,アジアのローカルな人類は住んでいたかもしれず,住んでいたとしたら九州島の人口は火砕流のためほとんど失われたと思われます.なにしろ北海道で火山灰が 15 cm ほど積もっています.

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Image from Pixabay

もっとスケールの大きな噴火もあるそうで,スマトラ島のトバ火山が 73,000 年前に超巨大噴火を起こしたのですが,これはイエローストーンと並んで第四紀で確認される最大の単一噴火イベントだそうです.そして,この噴火と同時期にヒトの遺伝子の多様性が著しく減少していることから,この噴火で当時の人類の大半が死滅したという説があります.火山の噴出物によって地球規模の寒冷化が 6,000 年ほど続いた後,ヴェルム氷期に突入したというシナリオです.脆弱な生存基盤しか持たなかった当時の現生人類や他の人類の大部分が死滅してしまった,ということのようです.ま,異論もあるので話半分に聞いておくべきでしょうが,それにしても火山がいかに破壊的であるか,それに対する備えはあるのかと問い直す必要があると思います.

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2022/07/24

ツバメのねぐら入りの季節

子育てが終わると,日没時ツバメはねぐらに集まるようになります.今月初めに見に行ったときにはねぐら入りする数は少なかったのですが,それでも数百羽から千羽程度のねぐら入りが見られました.

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それから 3 週間ほど経ったので,もっと増えているだろうと近くのヨシ原に行ってみました.結果は,それほど増えてはおらず,ねぐら入りは 3 波に分けて合計で 3 千羽程度.最盛期に比べるとまだまだ寂しい規模ですが,これから次第に増えていくと期待したいと思います.ねぐら入りを楽しめるシーズンの到来です.

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一方ムクドリのねぐら入りの群れが皆無.どこか別の場所にいいねぐらが見つかったのかな?

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2022/07/19

クリの実が育つ

今日は厚い雲に覆われて日射しはないにもかかわらず,強い南風と猛烈な湿気で,散歩に出るのを断念.日本の夏はとにかく湿度との戦いです.湿度が低ければもっと快適なのですが,四方を水温の高い海に囲まれている関係上,湿度が高いのは諦めるしかありません.

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散歩コースの途中のマント群落ではクリの実が成長中です.当地はクリの生産が盛んで,くりのみ幼稚園なんてものがあるくらい.イガが痛そうですが,イガの中には美味しい実が育っているはず.涼しい秋が来るのが待ち遠しいです.

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2022/07/18

ヤブミョウガ

今日は最高気温が 32 度を超える暑さなので散歩はお休み.

下の写真は昨日散歩コースで見かけたヤブミョウガの花.暗くてじめじめしたところに生える植物のため,暗い背景に白い花がお決まりのパターン.露出補正をかけないと花が白トビしてしまいます.

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2022/07/17

羽根干し日和

猛暑の後で梅雨末期のような雨が多い日が続きましたが,今日はようやく晴れ間が見えて日射しもありました.湿度が高く蒸し暑かったのですが散歩に出かけてみました.

休耕田の際ではコジュケイの親子を発見.親 2 羽,子 4 羽の家族のようです.エサを探しに出てきたようなのですが,地面の上で羽根を広げたり膨らませたりしています.どうも濡れた羽根を乾かそうとしているようです.連日の雨で羽毛を乾かす間がなかったのでしょう.今日は鳥たちにとっては羽根干し日和です.

住宅地に面する広い畑ではキジの母子が歩いているところに出くわしました.場所から判断してこの辺りを縄張りとするキジ A の連れ合いのメスだと思われますが,写真を撮って拡大して調べてみると,昨年から私が個体識別しているメスとは異なるようです.ということはキジ A は複数のメスと繁殖していることになります.いつの間に.やるねぇ.

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この母子も羽を広げて乾かしていたようですが,やがて餌を求めてあたりを歩き回り始めました.母親はときどき上空をじっと見上げて警戒に余念がありません.タカを警戒しているのかな?何とか子育てがうまく行くといいのですが.

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2022/07/15

吉田茂氏の国葬の日

再び時事ネタにかこつけた昔ばなしです.

安倍晋三氏の国葬が営まれることになったそうです.自民党の一部に強い意向があり,それに反対することがはばかられた結果,すんなりと決定されたものと推測します.

現行憲法には国葬の規定がないため,国葬には法的根拠が無いのだそうです.すると 1967 年に行われた吉田茂氏の国葬も法的根拠が無いまま行われたことになります.ということで調べてみると,法的根拠はなかったが,当時の佐藤栄作首相の強い意向で閣議において決定され,宗教色を排して挙行されたそうです.

私はこのとき小学 6 年生でした.ははぁ歳がばれますね.覚えているのは,エライ政治家が亡くなって国葬というものが行われる,学校は半ドンになる,歌舞音曲は慎むべしということくらい.要するに国民全員が追悼の意思を示せということでした.

当日 10 月 31 日火曜日,国葬は日本武道館で行われましたが,テレビで中継したかどうかは記憶にありません.というのも・・・半ドンになったことをいい事に,父は私を誘って街の中心部に映画を観に行ったからです.確かクレイジー・キャッツのドタバタ喜劇で,おそらく直前に封切られた「クレージーの怪盗ジバゴ」.大いに笑い楽しんで帰ってきたことを覚えています.堅物の高校教師だった父がこのような挙に及んだのは,何か胸に一物あったからかもしれません.

平安時代よろしく歌舞音曲を慎めとは言われていましたが,首都から遠く離れた地方都市では,映画館もパチンコ屋も喫茶店もいつも通り営業していましたし,きっと夜は居酒屋やキャバレーも賑わっていたはずです.国葬といっても当時はこんなものだったのです.実に健全でよろしい.

秋に行われることになった安倍晋三氏の国葬のときに,どのようなお達しや自粛や忖度が行われるのか今から楽しみにしていますが,私はきっと普段通りの生活をするだろうと思います.

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2022/07/13

統一教会洗脳旅行とアカプルコ

安倍晋三氏が殺されました.白昼堂々の殺害だったので暗殺とは呼べないでしょう.犯人は家庭を破壊させた統一教会への恨みが募り,関係があると思って安倍氏を殺そうと決意したそうです.動機としては理解できなくもありませんが,相手を少々間違えました.

さて統一教会そのものについては,カルト教団という以上の詳しいことは知らないのでここで書くことはしませんが,昔の面白かったエピソードを一つ.

統一教会は影響力のある人たちを信者あるいはシンパにするため,社会各階層への浸透に熱心でした.おそらく今でもそうでしょう.そして今から 40 年ほど前,東京大学の赤門前に事務所を構え,東大生への勧誘を学内でも路上でも熱心に行っていました.勧誘のためのニンジンはうまくカムフラージュしてあり,アメリカへの無料の「研修旅行(指導者セミナー)」に参加しませんか?というものでした.指導者セミナーとはアメリカの統一教会を訪ねて洗脳教育を行うもので,期間は一週間前後だったと思います.

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フリー素材ドットコムからの画像

当時海外旅行は庶民にとって,ましてや学生にとっては高嶺の花だったので,このニンジンに釣られて参加する学生もいたようです.そして一つのエピソードが生まれました.

これは伝聞かつ武勇伝なのでどこまで本当かはわかりませんので,そのつもりで聞いてください.ある学生がこの研修旅行に参加したのですが,彼は飛行機がアメリカに着いてすぐに行方不明になってしまいました.研修ご一行様は予定通り洗脳教育を終えて帰国のためにアメリカの空港に来てみたところ,行方不明になっていた学生が何食わぬ顔で現れて,同じ便で日本に帰国したそうです.

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PublicDomainPictures による Pixabay からの画像

彼は研修をエスケープしてメキシコのアカプルコに飛び,リゾートを満喫していたのでした.タダでアメリカまで往復できたことになります.帰国後教団からどのような文句や嫌がらせや恫喝を受けたのかは知りませんが,彼がその後も教団に入会などしなかったのは言うまでもありません.これは当時赤門界隈では有名だった武勇伝です.どこまで本当かなぁ?

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2022/07/09

ヒグラシが鳴き始めた

熱波の後で戻り梅雨のようなお天気が続いているのですが,今日は最高気温が 30 度を超えて,やはりもう真夏なのだというお天気.田んぼではコチドリの小さな群れが鳴く澄んだ声と,ヒクイナが鳴くこれまた澄んだ声が明け方から終日聞こえていました.

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夕方,月の写真を撮っているとき,遠くでヒグラシが鳴いていました.当地では今シーズン初認です.

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2022/07/08

夏になってきた

今朝は午前 4 時前の薄暗いころから庭でセミが鳴きだして目が覚め,当たりが明るくなってくるとヒヨドリやカラスが騒ぎ出して寝ているどころではなくなりました.セミは庭の木で羽化したのかなぁ?

湿度は高いものの北風が強く吹いていたので,さほど暑くないだろうと思って散歩に出かけたのですが,木々が作る陰に沿って歩いてもやはり汗だく.夏至を過ぎたばかりの日射は強烈です.

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今日は調整池ではシオカラトンボよりもオオシオカラトンボを多く見かけました.すこし大ぶりで青みがかかった,なかなか魅力的な姿です.ロープに止まってくれたので写真を撮ったのですが,拡大してよく見るとかなり羽根が傷んでいて,左前翅の翼端部は欠損しています.鳥にかじられたか?生きていくとはこういう事なのかと思わざるを得ません.

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林縁のマント群落ではエゾウコギの実が熟してきましたが,カラスウリの開花はまだのようです.今日は田んぼではヒクイナがよく鳴いています.

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2022/07/07

Refsort v3.72 released

辞書参照型ソーティング・フィルタ Refsort/Ruby (新しいほうから *1 *2 *3 *4 *5)の改訂版 v3.72 をリリースしました.今回の改訂はバグの修正と,例外処理の若干の簡素化です.

まずバグの修正について.Refsort は --output, -o オプションで出力するフィールドを自由に選択できるのですが,出力のフィールド区切り記号そのものが含まれているフィールドは二重引用符で囲んで出力するようにしています.これは出力の再利用を容易にするためで,ある意味必須の機能です.例えば出力の区切り記号が空白の場合,フィールド内部に空白があるとそのフィールドを二重引用符で囲みます.例えばこんな感じ.

A B "C1 C2" D E

このフィールドを再び Refsort で読み込むと,フィールド分割を { } で示すことにすれば,

{A} {B} {C1 C2} {D} {E}

という具合に正しくフィールドが分割されます.

ところが,フィールド内に二重引用符自身が含まれていると,二重引用符自身をエスケープしてやらないと再利用するときのフィールド分割がうまく行かずに困ったことになってしまいます.しかしこれまで二重引用符のエスケープは放置されたままというバグが残っていました.

今回,二重引用符で囲まれたフィールド内の二重引用符は CSV の習慣に従って二重引用符自身でエスケープする,つまり二重引用符を2個連ねることでエスケープすることにしました.つまりこんな感じに出力されます.

A B "C & ""Special""" D E

これを再利用時に Refsort で読み込むと,

{A} {B} {C & "Special"} {D} {E}

という具合に正しく分割されます.

もうひとつの改訂は --didyoumean, -y--fullsearch, -Y オプションを使ったときのメッセージに,正解候補の文字列だけではなく,その候補が辞書ファイルの何行目にあるのかを示すようにしたことです.例えばこんな感じの出力が得られます.

!I 16: "オオタグロカモメ" not found in jpblist_v70p5w.ref
  Did you mean? "オオズグロカモメ" at R 698
               "オオセグロカモメ" at R 716

Refsort/Ruby とそれに関連するコンテンツのアーカイブを Microsoft One Drive に置いています.画面右側コラムの Archive の中の Refsort/Ruby Archive をクリックしていただくと,私の OneDrive 上に設けたライブラリが開きますので,そこから過去分も含めてファイルをダウンロードすることができます. Refsort 本体の refsort.rb は refsort_v372.rb というファイル名でアップロードされていますので,ダウンロード後に refsort.rb に変更するとよいでしょう.改行コードも CR/LF になっていますので,適宜変更してお使いください.エンコーディングは US-ASCII ですので,そのままでよいでしょう.現時点でユーザーズガイドは未改訂ですが,IOC List v12.2 が公開された後で,その内容を反映させたものをリリースする予定です.

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2022/07/06

T + B > D

昨日の記事の終盤に言葉足らずの点があったので,ちょっと補足です.再生可能エネルギーを大量に導入した場合の調整力と,それを反映した CO2 排出原単位とコストについて.

再生可能エネルギーを主力電源にすることを考えます.再生可能エネルギーには多種あるのですが,日本の現状から太陽光,風力,水力だけを含めることにします.これらの出力を R [GW] とします.この R は時々刻々激しく変動する時間の関数で,理論上の最大値は設備容量の公称値ですが,実際の最大値はそれよりかなり小さな値となります.最小値は渇水期の夜間の無風時に発生する可能性があり,その値はゼロ (*注 1) です.

次に原子力発電の出力を A [GW] とします.日本では原発の出力調整は禁忌なので,定検時期を除けば A はほぼ一定です.ここでは定検時期ではない場合を想定し,A は定数とします.

さらに様々な種類の火力発電が持っている発電能力(要請があればすぐに供給できる電力)を T [GW],蓄電池の出力能力(同様)を B [GW] とします.これらはポテンシャルの値なので定数です.

CO2 排出量を最小にする電源構成を目ざして,電力を原子力と再生可能エネルギーだけで賄うことにします.需要電力を D [GW] とし,送電ロスを無視する(送電端電力 = 受電端電力)と,

R + A > D    (1)

が常に成り立たなければなりません.R と D は時間の関数,A は定数です.不等号が付いているのは余裕が必要だからです.これだけ見ると,原子力と再生可能エネルギーさえあれば全需要を賄えるように見えます.しかし R は非常に激しく変動するので,この不等式を常に成り立たせるには追加の条件が必要となります.

(a) A >> R として R がたとえゼロになっても不等式が成り立つようにする.
(b) R を非常に大きな値にして最小値でも不等式が成り立つようにする.
(c) R の変動を吸収するために,R の低下分を他の電源で賄う.

まず (a) は全需要を原子力だけで賄えと言っているので現実的ではありません.また (b) では再生可能エネルギーの設備容量をどんなに大きくしても,気象条件によって R ゼロになる可能性は否定できません (*注 1) し,そもそも設備容量が膨大になって経済的に成立しません.

そこで (c) が必要になるのですが,これを実現するためには R の寄与分を火力発電と蓄電池でカバーしなければなりません.つまり変動する R の様々な値に対して,定数である T と B は,

T + B > R    (2)

という不等式を満たさなければなりません.これを調整力と言います.調整力とは,実際に発電して電力を供給するかどうかとは無関係に,必要であればいつでも供給できる能力 (*注 2) のことを指します.

さて,これら (1) と (2) の不等式を辺々足し算して A を移項すると,

T + B > D - A    (3)

という不等式が得られます.これはつまり,電力需要からベース電源である原子力を差し引いた分を,火力と蓄電池はカバーできなければならない,ということになります.特に東電管内では A = 0 の状態が続いているので,T + B > D でなければなりません.

あれ?せっかく再生可能エネルギーをたくさん導入したのに,結局火力発電と蓄電池も全需要をカバーできる分だけ持っていなければならないってこと?

その通りなのです.注意すべきは,火力発電と蓄電池はあくまで調整力なので,常に電力を供給しているとは限りません.気象条件が良ければ再生可能エネルギーと原子力だけで全需要を賄えるので,火力発電や蓄電池はなにも仕事をせずにただ遊んでいるだけです.その間は CO2 排出量は非常に低く抑えられます.

いざ気象条件が悪くなって再生可能エネルギーの出力が不足してきたときには,待機していた火力発電や蓄電池がそれっとばかりに電力を供給してブラックアウトを防ぐことになり,CO2 排出量はその分だけ増えることになります.

ここからが本題です.CO2 排出量を減らすために再生可能エネルギーを導入しても,それと同じだけの調整力を持つために火力発電と蓄電池へも投資しなければなりません.そして特に火力発電は実際に調整用電力を供給すればその分 CO2 を排出します.この排出量を再生可能エネルギーの CO2 排出原単位に含めると,その分再生可能エネルギーの原単位は増えます.また火力発電プラントや蓄電池を建設・廃棄するときにも CO2 が発生するので,これも加わります.それでも火力発電を主力電源にして化石燃料を大量に燃やすよりは CO2 排出量はずっと少なくなるので,CO2 削減のためには上記のシナリオが一つの端的なオプション (*注 3) になります.

ただし CO2 排出量は減るのですが,設備投資は二重に必要になります.つまり電気料金には稼働率の低い火力発電プラントや蓄電池の減価償却費と保守管理費用も加算されるということになります.これを許容できるかどうかが判断の一つの分かれ目になります.

(注 1) ここでは R の最小値をゼロとしましたが,貯水地域の降雨が安定していたり,風力の容量が十分に大きくかつ広域での連系ができるのであれば,R の最小値はゼロよりも大きな値に出来るので,式 (2) は T + B > R - Rmin という風に修正され,調整力の必要容量は Rmin の分だけ緩和されます.つまり Rmin をいかに大きくかつ保証できるかが一つの鍵となります.北海やバルト海は風況が良く,ノルウェーは水力資源が豊富なので,欧州はこれでだいぶ得をしています.

(注 2) この調整力は市場で売買されるのが普通で,日本でも制度設計が進められています.例えば今日の午後 1 時から 2 時までの間に要請があってから 10 分以内に 1 GW の電力を供給できればいくら(容量市場), 1 秒以内に 0.1 GW の電力の供給と吸収を行うことができればいくら(周波数市場)という具合に対価が設定されます.そして実際には要請が来なかったために供給しなかったときでも対価は支払われ,要請が来たのに供給できなければペナルティが課せられます.

(注 3) このような極端なシナリオは現実的ではないので,火力からの寄与を常時含めることにして,式 (1) を R + A + T > D と修正すべきです.火力のうち調整力のために温存しておく発電能力を Ta とすると,式 (2) は Ta + B > R と修正されます.そして式 (3) は Ta + B > D - A - T という当たり前の式に修正されます.式 (3) は R の値に依らないので,結局 A,B,T,Ta を D に対してどのような比率で配分するかという問題になります.

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2022/07/05

HEV v.s. BEV

酷暑の日はエアコンを効かせた部屋に引き籠っていることが多く,いきおい色々な Web サイトを渉猟して歩く機会が増えます.そこでちょっと面白いと思ったのが BEV の電費と HEV の燃費の比較です.

実は私は半年少々前に車を買い替えて最新の HEV に乗っているのですが,燃費がすこぶる良いのです.ちょっと遠出をすると 30 km/L 以上出ます.今ごろ夏の暑い時期にエアコンをかけて近所に買い物に出かけることだけを繰り返しても 28 km/L は楽に行きます.これはひょっとして BEV に勝てるのではないか?

ではどういう共通の指標で比較すればよいのでしょうか?燃費の単位は km/L,電費の単位は km/kWh なので直接の比較はできません.しかも BEV が充電するときの電源には,原子力,火力,水力,地熱,太陽光,風力などがあり,それらの比率は時々刻々変化するので,大もとの投入エネルギーをうまく定義できません.

ここでは,現在の首都圏には原発由来の電力はほとんどないこと,風力はごくわずかであること,さらに日中は太陽光発電の寄与があるものの,BEV が主に充電する夜間には太陽光発電はゼロであることから,BEV の電源は 100% 火力発電由来であると仮定します.

まず LEAF ですが,日産 LEAF の電費をユーザーの声から拾ってみると,だいたい 7.5 km/kWh というのが平均のようです.そして受電端発電効率をかなりひいき目に見て 35% とします.これは LNG コンバインド発電超々臨界圧石炭火力も含んでの話です.すると元々の熱量に対する走行距離は,

(7.5 km/kWh) x 0.35 = 2.63 km/kWh = (2.63 km) / (3600 kJ) = 0.731 km/MJ

という値になります.つまり発電所で 1 MJ の発熱量を持つ燃料を燃やして得た電力で,0.731 km 走ることができるということです.

Electriccarg3397f8897_1280

Wolfgang EckertによるPixabayからの画像

ではこれを私の車,新型 AQUA の燃費 28.5 km/L と比べてみましょう.ガソリン 1 L あたりの発熱量は石油連盟の資料によれば 33.36 MJ/L らしいので,その効率は

(28.5 km/L) / (33.36 MJ/L) = 0.854 km/MJ

という値になります.

これからわかることは,燃料の発熱量あたりの走行距離はほぼ同等.へぇ?こんなに一致するなんて不思議ですが,むしろ HEV のほうが良いくらいです.非常に大雑把な計算ですが,最新の HEV は結構いい線をいっていて,価格を考えると現状最良の現実解だということはわかると思います.

さていくつか考慮すべき点があります.まずは車格(特に重量)が同じか?という点です.これは LEAF と AQUA の形状や重量などを詳しく見なければなりませんが,大雑把に言ってこれら2車種は見た目ほぼ同格と言っていいでしょう.

次に,LCA で比較しなくてよいのかという議論もあります.一般的には HEV と比較して BEV のほうが製造や廃棄に係るエネルギーは多い(主として大量の電池やインバーターなどのパワーエレクトロニクス部品の製造と廃棄による)ので,利用時の効率が同程度であれば,LCA で見たときにはむしろ HEV のほうがエネルギー効率に優れている,ということになります.

なお,CO2 排出量に関して LCA ベースでまじめに議論をしようとすると,HEV の場合も BEV の場合も CO2 排出原単位の緻密な調査と計算をしなければなりません.いろいろな研究機関がいろいろな試算を行っていますが,私の知る限り BEV が HEV に比べて圧倒的に優れているという報告は見たことがなく,ほぼ同等という結論が多いように思います.最近注目したのは大型電動トラックに関するこの記事

もちろん再生可能エネルギーだけで BEV の充電ができれば,指標の定義の難しさはありますが,BEV が非常に有利になることは予想できます.ただしその場合でも,再生可能エネルギーの変動を吸収するために必要な揚水,待機火力や蓄電池への投資を再生可能エネルギーの CO2 排出原単位に含めると,社会全体としての優位さは削がれてしまうことは覚えておく必要があります.

このような計算ができるにも関わらず BEV が脚光を浴びているのは,HEV の技術開発でトヨタに負け,クリーン・ディーゼルのスキャンダルで深手を負った欧州の完成車メーカーと,彼らに食わせてもらっている EU の高級官僚や政治家たちの,産業競争力上の危機感と余裕の無さの現れだと思います.ロシアから天然ガスが入って来なくなるドイツで,どこまで原子力や石炭火力に頼らず BEV を推していけるのか,一つの社会実験として注視していく必要があります.

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2022/07/04

熱波去る

ここ一週間ほど熱波が居座って酷暑が続きました.例年だと今ごろは梅雨後半の分厚い雨雲が空を覆ってくれるので,強い日差しに曝されずに済むのですが,いったん雨雲が無くなってしまうと,夏至の太陽がこれほど強いものかと改めて思い知らされます.

昨日夜から小雨が降って気温が下がり始め,今日は真夏日にはならず.日中晴れて日差しが届くこともありました,おおむね曇り空で気温は 30 度くらいまでしか上がりませんでした.ただし湿度は高く,ちょっと体を動かすとじっとりと汗をかきます.

Summerhome_jul2022_0001m

夕方,思いのほか晴れ間が広がってきれいな夕焼けが見えていました.もう梅雨明けは発表されたのですが,これはあくまで人間社会の「都合」の話.これからどれくらい雨が降るのか,台風くずれの低気圧が近づいているので予断を許しません.

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