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2022/07/05

HEV v.s. BEV

酷暑の日はエアコンを効かせた部屋に引き籠っていることが多く,いきおい色々な Web サイトを渉猟して歩く機会が増えます.そこでちょっと面白いと思ったのが BEV の電費と HEV の燃費の比較です.

実は私は半年少々前に車を買い替えて最新の HEV に乗っているのですが,燃費がすこぶる良いのです.ちょっと遠出をすると 30 km/L 以上出ます.今ごろ夏の暑い時期にエアコンをかけて近所に買い物に出かけることだけを繰り返しても 28 km/L は楽に行きます.これはひょっとして BEV に勝てるのではないか?

ではどういう共通の指標で比較すればよいのでしょうか?燃費の単位は km/L,電費の単位は km/kWh なので直接の比較はできません.しかも BEV が充電するときの電源には,原子力,火力,水力,地熱,太陽光,風力などがあり,それらの比率は時々刻々変化するので,大もとの投入エネルギーをうまく定義できません.

ここでは,現在の首都圏には原発由来の電力はほとんどないこと,風力はごくわずかであること,さらに日中は太陽光発電の寄与があるものの,BEV が主に充電する夜間には太陽光発電はゼロであることから,BEV の電源は 100% 火力発電由来であると仮定します.

まず LEAF ですが,日産 LEAF の電費をユーザーの声から拾ってみると,だいたい 7.5 km/kWh というのが平均のようです.そして受電端発電効率をかなりひいき目に見て 35% とします.これは LNG コンバインド発電超々臨界圧石炭火力も含んでの話です.すると元々の熱量に対する走行距離は,

(7.5 km/kWh) x 0.35 = 2.63 km/kWh = (2.63 km) / (3600 kJ) = 0.731 km/MJ

という値になります.つまり発電所で 1 MJ の発熱量を持つ燃料を燃やして得た電力で,0.731 km 走ることができるということです.

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Wolfgang EckertによるPixabayからの画像

ではこれを私の車,新型 AQUA の燃費 28.5 km/L と比べてみましょう.ガソリン 1 L あたりの発熱量は石油連盟の資料によれば 33.36 MJ/L らしいので,その効率は

(28.5 km/L) / (33.36 MJ/L) = 0.854 km/MJ

という値になります.

これからわかることは,燃料の発熱量あたりの走行距離はほぼ同等.へぇ?こんなに一致するなんて不思議ですが,むしろ HEV のほうが良いくらいです.非常に大雑把な計算ですが,最新の HEV は結構いい線をいっていて,価格を考えると現状最良の現実解だということはわかると思います.

さていくつか考慮すべき点があります.まずは車格(特に重量)が同じか?という点です.これは LEAF と AQUA の形状や重量などを詳しく見なければなりませんが,大雑把に言ってこれら2車種は見た目ほぼ同格と言っていいでしょう.

次に,LCA で比較しなくてよいのかという議論もあります.一般的には HEV と比較して BEV のほうが製造や廃棄に係るエネルギーは多い(主として大量の電池やインバーターなどのパワーエレクトロニクス部品の製造と廃棄による)ので,利用時の効率が同程度であれば,LCA で見たときにはむしろ HEV のほうがエネルギー効率に優れている,ということになります.

なお,CO2 排出量に関して LCA ベースでまじめに議論をしようとすると,HEV の場合も BEV の場合も CO2 排出原単位の緻密な調査と計算をしなければなりません.いろいろな研究機関がいろいろな試算を行っていますが,私の知る限り BEV が HEV に比べて圧倒的に優れているという報告は見たことがなく,ほぼ同等という結論が多いように思います.最近注目したのは大型電動トラックに関するこの記事

もちろん再生可能エネルギーだけで BEV の充電ができれば,指標の定義の難しさはありますが,BEV が非常に有利になることは予想できます.ただしその場合でも,再生可能エネルギーの変動を吸収するために必要な揚水,待機火力や蓄電池への投資を再生可能エネルギーの CO2 排出原単位に含めると,社会全体としての優位さは削がれてしまうことは覚えておく必要があります.

このような計算ができるにも関わらず BEV が脚光を浴びているのは,HEV の技術開発でトヨタに負け,クリーン・ディーゼルのスキャンダルで深手を負った欧州の完成車メーカーと,彼らに食わせてもらっている EU の高級官僚や政治家たちの,産業競争力上の危機感と余裕の無さの現れだと思います.ロシアから天然ガスが入って来なくなるドイツで,どこまで原子力や石炭火力に頼らず BEV を推していけるのか,一つの社会実験として注視していく必要があります.

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