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2023/08/03

ハヤブサはマッハ 0.3 で飛べるか?

暑いので冷房の効いた部屋に引きこもる生活を続けているのですが,YouTube を渉猟していたら “ Top 5 Fastest Birds in the World” という子供向けのタイトルがあったので思わず観てしまいました.そしていくつか疑問が・・・

第 2 位はなんとイヌワシだそうです.しかもその最高速度は 320 km/h!これホントかなあ?アマツバメより速い.水平飛行でこの速度を出すのはイヌワシには無理なので,翼をたたんで急降下した場合の話なのでしょうし,体格が大きくて “体重/正面面積” の比が大きいから,終端速度が大きくなるのはわかりますが,落下距離がかなり必要なはず.

第 1 位はハヤブサです.こちらは話に尾ひれが付いていて,これまでに計測された最高速度は 389 km/h !これはギネス記録です.高度 17,000 ft (5,200 m) でセスナ 172 スカイホーク から放たれ,尾羽に取り付けられた高度記録計によって記録されたものです.このとき,ハヤブサが追うべき餌としてルアーを落とし,飼い主とカメラマンも同時にダイヴしたそうです.これは National Geographic のドキュメンタリー “Terminal Velocity(終端速度)” として 1999 年に撮られ,2002年に放映されました.こちらをご覧ください.

ちょっと疑問なのは,これは飛行速度というよりは番組のタイトル通り落下の「終端速度」というべきものです.さらに,高空なので大気密度は低いため,終端速度は大きくなりやすい.ちょっと簡単に見積もってみましょう.

このハヤブサ,Frightful という名の 6 歳のメス.難しいのは代表面積の取りかたです.彼女の頭胴長は 41 cm,翼開長は 104 cm なのですが,翼をたたんで急降下している状況なので正面面積が欲しいです.翼をたたんだときの正面面積として,まず直径 15 ㎝ の円の面積を使うことにします.これは 0.0177 m^2 です.次に彼女の抗力計数 CD を小さめに見積もって 0.1 としましょう.終端速度に近づいたであろう高度として 2,000 m をとると,その高度での大気密度は 1.007 kg/m^3 です.そこを 389 km/h = 108 m/s で飛んだ場合の抗力は,

(1/2) * ρ * v^2 * S * CD = (1/2) * 1.007 * 108^2 * 0.0177 * 0.1 = 10.4 N

一方彼女の体重は 0.998 kg ですが,高度記録計が 0.113 kg 加わるので,合計の重力は 10.9 N となり,ほぼ完全に釣り合います.うーむ我ながら見事な見積りです.

この高度での音速はだいたい 332 m/s なのでマッハ数は 0.33 程度となり,空気の圧縮性をそろそろ考慮しなければならない領域に到達していますが,体の周囲のどこをとっても衝撃波が発生することはないので,さほどの支障はないでしょう.支障があるとすれば自由落下から回復するときの空気力.これは抗力係数で言えば 1.0 のオーダーになるので,最大で 100 N 程度になりえます.これを翼の筋肉で支えられるか?まあ羽ばたきのことを考えると大丈夫なのでしょう.

ということで,ハヤブサがマッハ 0.3 程度で飛べることはほぼ確実です.素晴らしいですね.

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