君はひょっとしてナヴィエ・ストークス方程式に取り組んでいるのではないか?
流体力学の基本方程式ナヴィエ・ストークス方程式.移流項という非線形項に加えて粘性による散逸項を含む 3 次元の偏微分方程式.ナヴィエの最初の導出はかなり滅茶苦茶なものだったそうですが,何十年か経つうちにストークスによって洗練された正し導出が行われたそうです.
しかし「発見」されてすでに 200 年近く経つのに,いまだに解の存在や解が大域的に滑らかであるという証明はなされていません.それくらい難しい数学の難問の一つ.百万ドルの賞金が懸かったミレニアム問題の一つです.ま,それでも流体が滑らかに流れていく様を毎日眺めている私たちにとっては,数学的に証明できないだけで,それが正しいことは自明にも思えるのですが.
ところで,これもミレニアム問題の一つだったポアンカレ予想は,ロシア人の数学者グリゴリー・ペレルマンによって,誰も予想しなかった数学的手法によって 2002 年ころに解かれ,2006 年ころまでに検証されました.しかし彼は証明に利用した「リッチ・フロー」という概念を確立した R. S. ハミルトンに対する数学界の評価が正当でないと不満を持ち,フィールズ賞もミレニアム賞の受賞も辞退して引きこもってしまいます.
当然,変わり者の天才数学者というレッテルを貼られ,その引きこもりは現在でも続いているようです.生まれ故郷のサンクトペテルブルクのアパートに母親と一緒に住み,母親の年金で暮らしているともいわれています.
さて,ここからが本題なのですが,私は彼,グリーシャがナヴィエ・ストークス方程式の証明に取り組んでいるのではないかと期待しているのです.彼は数学者ではあるものの,理論物理学者という一面も持ち合わせ,ポアンカレ予想の証明論文には,エントロピーや温度などという物理学の概念が散りばめられて数学者を困惑させたといういわく付きです.純粋数学の問題よりも,物理学の問題であるナヴィエ・ストークス方程式に気を惹かれるのは当然です.
引きこもりはもう20年近く続いているので,そろそろ何か成果が出てきてほしいところ.あるいは何も出てこないまま数学者のキャリアを終えてしまうかもしれません.また,もう一つの可能性はやはりミレニアム問題の一つのリーマン予想に取り組んでいるのかもしれません.こちらは問題としては格上とされているので,さらに困難が予想されます.
ポアンカレ予想の証明に際しては,彼は学界の誰とも交流せず,議論もせず,たった一人で引きこもったまま孤独な格闘を続けたのですが,私はこのようなやり方ではナヴィエ・ストークス方程式の秘密が解き明かされるような気はしません.なんとか引きこもりを解いて,世界の数学者たちと議論をしながら研究を進めていってほしいと思います.
彼ほどの業績であれば,世界中のどの大学や研究機関であっても,学生への講義の義務などないポストを用意してくれることは確実です.母親の年金の脛をかじるのではなく,堂々と自分で稼げるはずなのです.あるいはクラウド・ファンディングを募れば,世界中の数学ファン,物理学ファンから有り余る募金が寄せられるでしょう.その金で好きな国で暮しながら研究を続ければよいのです.日本に来てもよいと思います.寿司を食べ,温泉につかりながら発想を練ってもよいではありませんか.お湯の流れは方程式の解の一つなのですから.
精神を病んだ天才チェスプレイヤーのボビー・フィッシャーが一時期日本でかくまわれ,穏やかな日々を過ごしていたことを思い出します.日本政府,特に法務省の対応は最悪でしたが.
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