ハヤブサは大気密度で押し返される
今日も酷暑なので朝からエアコンの効いた部屋に引きこもっています.昨日ポストしたハヤブサの降下速度に関する記事を読み返してみて,あらためて粗い近似での推定しか行っていないことに気づき,もう少し精度の良い計算をしようと思い立ちました.ヒマなので.
高空から自由落下する質点の運動方程式を解けばよいのですが,残念ながら空気の抵抗は速度の 2 乗に比例するので非線形の微分方程式になります.かつ昨日の記事では定数としていた重力加速度や空気密度は高度の関数なので,これらの値も降下するにしたがって変化していきます.
解析的に解くことは諦めて数値的に積分することにしました.標準大気表を用いて Excel 上で落下後 0.05 秒ごとの重力加速度と空気の抗力から加速度を求め,それを積分して速度,さらにそれを積分して高度が分かります.循環参照が生じるのを避けて計算は 1 次精度の陽解法としましたが,時間刻みを小さくとっているので誤差は十分に小さいと思います.そして結果をグラフにしてみると意外なことがわかりました.
グラフの横軸は降下開始からの時間,高度は灰色の曲線でその目盛は左の縦軸,速度はオレンジの曲線で右の縦軸が目盛です.降下する速度の符号を負にとっています.
ハヤブサは高度 5,200 m から降下しながら速度を増していくのですが,終端速度というものは存在せず,降下開始から 25.9 秒後に高度 3,050 m で最高速度 116.7 m/s に達した後は,むしろ減速しながら降下していくのです.地表に到達したときの速度は 103 m/s にまで減速しています.
こうなるのは降下するにつれて空気の密度がどんどん大きくなっていくからです.横軸を降下時間にとった空気密度のグラフを示しますが,これを見ると地表付近では降下開始時より 7 割も大きくなっているのです.空気抵抗は空気密度に比例するので,これでは減速するのは当然です.
空気密度や重力加速度が一定であれば,非線形ながらこの微分方程式には解析解があって,速度は時間に関する双極正接 tanh の形になります.時間を大きくすれば速度は一定値に漸近し,終端速度が求まります.しかし空気密度が上記のように大きく変化するので,これは正しいとは言えなくなります.
ということで,ハヤブサは降下当初は薄い空気の中を勢いよく加速していくのですが,やがて濃くなっていく空気に押し返されて減速を始める,それもまだかなり高い 3,000 m でそうなるということが分かりました.昨日は恐るべしハヤブサと思ったのですが,今日は恐るべし大気という感じです.高空からスカイダイヴする人は経験上知っているのではないかな?
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