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2024年8月

2024/08/31

パリ・オリンピック開会式に寄せて

え?もうオリンピック?つい最近東京でやったばかりじゃないか?と思った人も多いと思いますが,東京大会は1年遅れで開催されたのでした.しかしパリでオリンピックが開催されることは知っていたものの,いつからどういう会場で?ということには全く無頓着でした.そもそもノートルダムの修復が終わっていないのにオリンピックができるの?と頓珍漢なことを考えていたのです.過剰装飾の大聖堂が数年で修復できるはずはありません.

そしてある夏の日の朝,いつものように朝食時にテレビをつけると,雨が降りしきる中で聖火の点灯式が中継されているではありませんか?へぇーと思ってみていると,巨大な気球がぼわーっとあがり,しばらくしてから聞き覚えのある歌が流れてきました.

えー?セリーヌ!病気じゃなかったの?そして相変わらず圧倒的な歌唱力と情感表現で,エッフェル塔の展望台からパリを見下ろしながらピアフ愛の賛歌を歌い上げ,ようやく開会式が終わったようでした.伴奏のピアノは雨でずぶ濡れでしたが,ピアニストの白髪のおじさんは乗りに乗っていました.そりゃそうだよ,セリーヌだよ!しかし放送にピアノ音は含まれず,どうやら録音が使われたようです.このピアノはひょっとするとスタインウェイ・アーティストだそうで,そうだとすると大変高価なもの.でもこのパフォーマンスのためなら惜しくないということなのでしょう.

フランス人からはセリーヌのカナダ訛りのフランス語は揶揄されることもあったのですが,とにかくフランス語の歌詞を見事に歌い上げました.病んでいながらこの圧倒的な歌唱力.これぞトップシンガーの実力.エッフェル塔下で雨に濡れながら聞きほれていた観客の様子を YouTube で見ると,彼女の歌が完全に受け入れられていることがわかります.

通りに出ればエッフェル塔が間近に見える場所に住んでいたこともある者としては,あそこでこんなことが行われたんだ!という感慨がこみ上げてきました.もうパリもずいぶん変わったことでしょう.しかしパリは,

Fluctuat nec mergitur  たゆたえど沈まず

生きているうちにもう一度は訪れてみたいと思っています.

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2024/08/27

IOC List v14.2 Released

IOC World Bird List v14.2 が予定よりもだいぶ遅れてリリースされました.これは 2024 年 2 回目のリリースです.

前回 2023 年 12 月末(公称 2024 年第 1 回)のリリースから 8 か月もかかっていますので,6 か月周期でのリリースが原則のはずの IOC List にとっては非常に変則的です.編集長やスタッフの予定がうまく取れなかったのでしょうか.何しろ全員ボランティアですから.ただし正式なリリース日が判然としないのは前回と同様です.これ困るんですけど.私としては 8 月 27 日をリリースの日と見なしたいと思います.

今回収録されたのはが 44,が 254,が 2,392,が 11,276(うち絶滅種が 163),亜種が 19,756 です.

今回は属レベルの異動が大変多く,Refsort の辞書ファイルの編集には大変時間がかかりました.しかも過去の分類に戻すような修正も目立ちました.例によって日本のバーダー向けに重要と思われる変更点を書いておきます.

  1. Ixobrychus ヨシゴイ属が廃止され Botaurus サンカノゴイ属に併合されました.その結果従来ヨシゴイ属だったすべての種の属名が変更されました.これは非常に大きな変更です.変更内容をそのまま引用すると,mtDNA and UCE genetic studies reveal that Ixobrychus is not monophyletc but is rather paraphyletic relative to Botaurus (Päckert et al. 2014; Hruska et al. 2023). Merge Ixobrychus into Botaurus (Chesser et al. 2024). 日本のバーダーにとって影響がありそうなのは,B. flavicollis タカサゴクロサギ,B. f. flavicollis 亜種タカサゴクロサギ,B. cinnamomeus リュウキュウヨシゴイ,B. sinensis ヨシゴイだと思われます.
  2. Bubulcus アマサギ属が廃止され,Bubulcus ibis Western Cattle Egret ニシアマサギと Bubulcus coromandus Eastern Cattle Egret アマサギは Ardea アオサギ属に異動し,A. ibisA. coromanda となりました.後者の種小名の語尾が性によって変化していることに注意.これも大きな変更です.コメントを引用すると,Phylogenetic analysis based on UCE elements reveals that Bubulcus is embedded in Ardea (Hruska et al. 2023).
  3. タカ類でも大きな変更が行われました.そのまま引用すると,Tachyspiza Kaup 1844 is resurrected as a genus to resolve the non-monophyly in the genus Accipiter demonstrated in phylogenetic analyzes (Lerner & Mindell 2005; Mindell et al. 2018) following Catanach et al. (2024). つまり Accipiter ハイタカ属の中の単系統群でないと考えられるものを Tachyspiza に移したということのようです.日本のバーダーに関係しそうなものは T. badia タカサゴダカ,T. soloensis アカハラダカ,T. gularis ツミ,T. g. gularis 亜種ツミ,T. g. iwasakii 亜種リュウキュウツミくらいでしょうか.
  4. さらに同じ理由で Astur Lacépède, 1799 is resurrected as a genus to resolve the non-monophyly in the genus Accipiter demonstrated in phylogenetic analyzes (Lerner & Mindell 2005; Mindell et al. 2018) following Sangster et al. (2012); Catanach et al. (2024), ということで,Accipiter ハイタカ属から Astur 属に異動した種のうち,日本に関係するのは A. gentilis オオタカと A. gentilis fujiyamae 亜種オオタカです.
  5. Upupa epops ヤツガシラの亜種 U. e. saturata が基亜種から分離されました.,日本で見られるヤツガシラはおそらくこれなのですが,日本鳥類目録には基亜種 U. e. epops が亜種ヤツガシラとして掲載されていますので,近い将来に調整が必要と思われます.
  6. Nucifraga caryocatactes Spotted Nutcracker ホシガラスが分割されて N. hemispila Southern Nutcracker という種が作られた関係で,ホシガラスの英名が Northern Nutcracker に変更されました.
  7. シジュウカラ類の分類が変更されました.従来は Parus cinereus (Cinereous Tit) と Parus minor (Japanese Tit) が Parus major から切り出されて独立種として扱われてきたのですが,最近の研究で Parus major という複合群は,東アジアの P. cinereus (cinereus + minor) と,旧北区の残りの地域の P. major (major + bokharensis) の 2 種から成るよう解釈すべきとされたようです.この結果日本で見られるシジュウカラは種としては P. cinereus,亜種としては P. c. minor ということになります.これに伴い,亜種アマミシジュウカラ,亜種オキナワシジュウカラ,亜種イシガキシジュウカラもそれぞれ P. c. amamiensisP. c. okinawaeP. c. nigriloris となります.さらに従来 P. cinereus に(私が勝手に)与えていた和名のハイイロシジュウカラは削除することになります.
  8. Cecropis daurica Red-rumped Swallow コシアカツバメが分割されて C. rufula European Red-rumped Swallow という種が作られた関係で,コシアカツバメの英名が Eastern Red-rumped Swallow に変更されました.
  9. 従来タヒバリは Anthus rubescens Buff-bellied Pipit として扱われてきましたが,今回種が分割されて,従来A. r. japonicus 亜種タヒバリとされきたものが種に昇格して A. japonicus Siberian Pipit となりました.つまりこれが日本で見られるタヒバリです.分割された残りの A. rubescens の英名は American Pipit に変更されました.
  10. Chloris sinica カワラヒワ の英名が Grey-capped Greenfinch から Oriental Greenfinch に変更されました.
  11. これまで Acanthis flammea Redpoll ベニヒワの分類は十分に確立されたものではなかったのですが,今回は従来独立種としていた A. cabaretA. hornemanniflammea の亜種に格下げしました.その結果 flammea には 5 亜種がぶら下がることになりました.
  12. (参考)日本のバーダーには関係ありませんが特筆すべきイベントなので書いておきます.これまで Turdus poliocephalus Island Thrush と一括りに扱われていた種複合群が今回 17 種に分割されました.しかもこの分割はまだ保守的なレベルであって,今後さらに細分化されていくだろうとのことです.それらのうち Turdus mindorensis Mindoro Island Thrush が最も基盤となる種だそうです.

2024 年 9 月に日本鳥学会の日本鳥類目録改訂第 8 版のリリースが予定されていますが,今回の IOC List の変更を取り込むのは無理だと思われるので,しばらくは属名のくい違いで悩む人が出て来そうです.


IOC 本家の Master List (学名と英名を収録した Excel ファイル)を編集して,Refsort/Ruby 用の辞書ファイル(拡張子が .ref のテキストファイル)を作りましたので, Microsoft One Drive 上に設けた “IOC List Archive” にアップロードしました.エンコーディングは UTF-8US-ASCII の 2 種類です.正版は UTF-8 版で US-ASCII 版は簡易版ですが,詳細についてはユーザーズガイドをご覧ください.


このオリジナル版の辞書ファイルと併せて,全ての掲載種に和名を付与した辞書ファイル 2 種と, IOC Master List の和名追加版( Excel ファイル)も同時にリリースしました.これら和名追加辞書についても,UTF-8 でエンコードしてあるものが正版ですが,Windows などでの使い勝手を考慮して Windows-31J でエンコードしたものも同時にアップしてあります.詳細についてはユーザーズガイドをご覧ください.

単に種名を調べるためだけであれば,和名追加版の Master List( Excel ファイル)が最も便利です.ただし長大なワークシートなので,目的の名前をスクロールして探すのは非効率です.検索メニューからジャンプするのが良いでしょう.


これらのファイルは前述のとおり,Microsoft One Drive 上に設けた IOC List 専用のフォルダからダウンロードできます.それには,このブログ右側のコラムの最上段の Archive の中の IOC List Archive をクリックしてください.そうすると One Drive のフォルダに入ることができますので,あとは適当に選んでダウンロードしてください.


I am pleased to announce that I have posted reference files for Refsort/Ruby compiled directly from the latest IOC World Bird List v14.2. It contains 44 Orders, 254 Families, 2,392 Genera, 11,276 species including 163 extinct ones, and 19,756 subspecies, respectively. Please try it out, and enjoy its capability and speed.

Note that the reference file "ioclist_v142u.ref" is encoded in UTF-8 in order to retain all European accents and umlauts with complete fidelity as they are in the IOC Master List.

For those who want to use Refsort/Ruby in universal ASCII environments, I have posted another reference file "ioclist_v142a.ref" encoded in pure US-ASCII. Note that characters with accents and umlauts have been simplified to their nearest neighbors. So please be careful in particular when you refer to authorities of species.

I have also posted two different reference files "ioclist_v142ju.ref" and "ioclist_v142jw.ref" (encoded in UTF-8 and Windows-31J, respectively) which include Japanese names for all species. If you want to know Japanese names, please refer to those files.

In order to sort a list properly using these reference files, you need to align the encoding of the input file to that of the reference file, and you should add a magic comment specifying the encoding in the first line of these files, such as

#!E -*- coding: UTF-8 -*-

or, add an option "-E UTF-8" into your commandline.

You can skip this process if your iput file is encoded in the default encoding of your platform, e.g., US-ASCII or Windows-31J for Windows, UTF-8 for macOS or Linux.

A master list in Excel format containing a column of Japanese names has been posted as well. This would be most convenient for quick reference.

You can download appropriate files from my area of Microsoft One Drive by clicking “IOC List Archive”. Enjoy, and bon appétit.

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2024/08/17

水生植物と食虫植物

今日は台風一過の猛暑日,なのに家人が行きたいと言うので筑波実験植物園に行ってきました.水草をテーマにした展示が行われているのです.

Tsukubabotanicalgarden_aug2024_0009m

園内は広いのですが,展示が行われているのは研修展示館の建物の中.いくつもの大型の水槽に様々なテーマに沿って水生植物が植え込まれており,さらには水生植物と関係の深い小魚や小動物も入れられています.ミズオジギソウミジンコウキクサなどという植物があることを初めて知りました.

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アマモの展示は大変勉強になりました.魚の生物のゆりかごとして知られており,最近は減少した群落の復元事業が行われれているそうですが,アマモは地域ごとに遺伝的系統が異なるので,安易な移入はしてはいけない云々.

ゲンゴロウばかりを集めた水槽があったのですが,私が子供のころに親しんでいた最も普通のゲンゴロウであるナミゲンゴロウは入っていませんでした.理由を尋ねると当地では見られない種なのだそうです.へえ,そんなに地域差があるものなのか.一緒にプールで泳いでいたし,夜になると家の中に飛び込んできていたものでしたが.

水生植物の展示を見た後で環境別の温室も見学.すごい植物がたくさんありますが,食虫植物のウツボカズラの仲間がなかなか魅力的です.見ているうちに夜の街で客引きされているような気分になってきました.虫もそう感じて入り込んでしまうのでしょうか?

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2024/08/11

利尻,礼文からの逆カルマン渦列

本日礼文島,利尻島の下流に発生した雲の渦列についてもう少し詳しく調べてみました.礼文,利尻の隙間を通った流れの蛇行についてです.

  1. 7時00分以前の画像では雲の蛇行は見られませんが,7時10分の雲画像には雲が蛇行を始めたことが見て取れ,7時30分の画像ではそれが非常に明確になります.
  2. 8時00分の画像ではそれが渦列となっていることが分かります.
  3. 9時00分の画像では渦列の長さはすでに100km以上に達しています.
  4. 11時00分の画像では渦列の長さは200km以上に達しています.
  5. 12時00分になっても同じような規模の渦列が長く伸びています.

Vortexstreet_2024081107007時00分

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Vortexstreet_2024081109009時00分

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Vortexstreet_20240811120012時00分

その後も渦列の放出は続き,日没に近い17時ころには見えにくくなってしまいました.

断定はできませんが,この渦列はいわゆるカルマン渦列の逆パターン,つまり礼文島と利尻島の隙間を通り抜けた風がジェットとなって作り出した渦列ではないかという気がします.二次元噴流の不安定性としてよく知られた現象に似ています.逆カルマン渦列という言い方もあるようです.もしも本当であれば,気象現象としてはかなり珍しいイベントではないかと思います.

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台風マリア

今日は昨日の涼しさから一転して急激に気温が上昇中です.正午現在ですでに 35 度.埼玉の熊谷では 39 度が予想されています.

Himawari8_20240811134000

ひまわり8号の動画

それにもかかわらず台風マリアは東北地方にゆっくりと接近中.今年は東北沖の海水温が平年より 5 度も高いそうで,さぞ水蒸気と潜熱をたっぷりと溜め込み,莫大な量の雨を降らせることでしょう.地震に引き続き今度は台風.自然災害大国の日本ではありますが,東北地方の被害が少ないことを切に願います.

ひまわり 8 号の雲画像を動画で見ると,台風周辺で積乱雲がふつふつと湧き上がっているのがわかります.こいつらが悪さをしないでいてくれるとありがたいのですが.風が強ければ海面をかき混ぜて海水温を下げる効果があるのですが,マリアは風は強くなさそう.

*上の雲画像の左上部分,利尻島,礼文島あたりから非常にきれいな雲の渦列が出ているのが見えます.済州島からの渦列は有名ですが,夏に見られるのは珍しいのではないかな?

今から 60 年ほど前,毎週のディズニーチャンネルでときどき放映されていた台風マリアを思い出してしまいました.怖い声のソプラノが「マリーアー」と歌うやつです.

ちなみに 2017 年のハリケーン Maria はカテゴリー 5 まで発達したとんでもないやつで,気圧は 908hPa まで低下しました.

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