パリ・オリンピック開会式に寄せて
え?もうオリンピック?つい最近東京でやったばかりじゃないか?と思った人も多いと思いますが,東京大会は1年遅れで開催されたのでした.しかしパリでオリンピックが開催されることは知っていたものの,いつからどういう会場で?ということには全く無頓着でした.そもそもノートルダムの修復が終わっていないのにオリンピックができるの?と頓珍漢なことを考えていたのです.過剰装飾の大聖堂が数年で修復できるはずはありません.
そしてある夏の日の朝,いつものように朝食時にテレビをつけると,雨が降りしきる中で聖火の点灯式が中継されているではありませんか?へぇーと思ってみていると,巨大な気球がぼわーっとあがり,しばらくしてから聞き覚えのある歌が流れてきました.
えー?セリーヌ!病気じゃなかったの?そして相変わらず圧倒的な歌唱力と情感表現で,エッフェル塔の展望台からパリを見下ろしながらピアフの愛の賛歌を歌い上げ,ようやく開会式が終わったようでした.伴奏のピアノは雨でずぶ濡れでしたが,ピアニストの白髪のおじさんは乗りに乗っていました.そりゃそうだよ,セリーヌだよ!しかし放送にピアノ音は含まれず,どうやら録音が使われたようです.このピアノはひょっとするとスタインウェイ・アーティストだそうで,そうだとすると大変高価なもの.でもこのパフォーマンスのためなら惜しくないということなのでしょう.
フランス人からはセリーヌのカナダ訛りのフランス語は揶揄されることもあったのですが,とにかくフランス語の歌詞を見事に歌い上げました.病んでいながらこの圧倒的な歌唱力.これぞトップシンガーの実力.エッフェル塔下で雨に濡れながら聞きほれていた観客の様子を YouTube で見ると,彼女の歌が完全に受け入れられていることがわかります.
通りに出ればエッフェル塔が間近に見える場所に住んでいたこともある者としては,あそこでこんなことが行われたんだ!という感慨がこみ上げてきました.もうパリもずいぶん変わったことでしょう.しかしパリは,
Fluctuat nec mergitur たゆたえど沈まず
生きているうちにもう一度は訪れてみたいと思っています.
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