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2025/10/14

戦争映画の受け取り方は人さまざま

アメリカン・スナイパー [Blu-ray] - ブラッドリー・クーパー (出演), シエナ・ミラー (出演), クリント・イーストウッド (監督)

アメリカ同時多発テロから始まったイラク戦争で超人的な成績を残した伝説のスナイパー,クリス・カイルの実話を基にした映画です.監督は手練れのイーストウッドですが,監督の意図はいざ知らず,様々な受け取り方ができる映画だと思います.戦争映画としてはプライベート・ライアンを抜いて全米史上最高の興行成績を叩き出したそうです.

アメリカ国内では保守派とリベラル派との間でこの映画の解釈をめぐって大論争が起きました.さもありなんです.今ならもっと深刻な社会を分断する論争に発展していたでしょう.愛国的な映画として賞賛する人たちがいれば,この映画を反戦映画として解釈する人たちもいます.私はどちらかというと娯楽作品として楽しんだくちなのですが.

私はこれまで断片的には観ていたのですが,今回初めて全編を通して鑑賞しました.何しろプライベート・ライアン以後に制作された映画なので戦場のリアリズムに手抜きはありません.かと言ってライフルの銃弾が自分の至近距離をかすめるときの音や衝撃,人が頭部を撃ち抜かれたときどのように脳漿が飛び散るのかを私自身が知っているわけではないので,「何となくすごそう」と素人が感想を述べているにすぎません.戦場はイラクの街中,相手はイラクのテロリスト集団.現代の市街戦です.ブラックホーク・ダウンを彷彿とさせるシーンがたくさん出て来ます.

同時多発テロにショックを受けた主人公は,当初は祖国アメリカを守りたいという動機で海軍の SEALs に志願してイラクに赴き,狙撃手として優秀な成績を上げていきます.しかし映画では敵の中にも凄腕のスナイパーがいて,そいつのせいで仲間が傷つき死んでいくのを目の当たりに見るうち,次第に仇を取るため仲間を守るためという動機で繰り返しイラクに赴任するようになり,最後は敵のスナイパーを仕留めることが目標になっていきます.

繰り返し戦場に赴く夫の精神が蝕まれていくのに気付いた妻は夫を引き留めようとするのですが,夫の決意は固く言うことを聞いてくれません.最終的には敵のスナイパーを仕留めたという確信を得て,主人公は帰国し除隊します.帰国後は自身の PTSD を癒し,また PTSD に苛まれている他の退役軍人たちの更生を手伝うようになるのですが・・・

主役を演じたブラッドリー・クーパーという俳優は非常に優秀です.建物の屋上から地上を警戒しているとき,自爆テロの実行犯が子供だったり女性だったりしたときに撃つのをためらう主人公の内面をよく演じています.映画の後半では射殺されたテロリストが持っていた RPG を子供が拾い上げて操作しようとするシーンがあるのですが,このとき主人公が迷う心理描写は実にうまい.何度テイクしたかは知りませんが.まあしかしこの映画では演技らしい演技はこの程度で,残りはドキュメンタリー映像に近いので役者の出番はあまりありません.

ところでイラクのバグダードでもこの映画が公開されたそうですが,子供が自爆しようとするシーンでは「撃て,爆弾を持っているぞ」と叫ぶ者がいたり,子供が RPG を拾い上げるシーンでは「撃て」という大合唱が起きたそうですから,当地はなかなか複雑な社会心理なのだと思い知らされます.非当事者の私たちが安全なところから呑気に楽しんでいるのとは違うのでしょう.

この映画のエンドロールは見ものです.クリス・カイル本人が PTSD を患った退役軍人から射殺されたときの葬列の実写映像が延々と流れます.道路沿いでは星条旗を持った多数の人たちが葬列を見守ります.また墓地での追悼式の様子も流されますが,そこにも多数の軍人,退役軍人,そして一般市民が集まっています.伝説化された英雄の葬儀とはいえ,アメリカの愛国者の伝統がかくも強いものかと改めて思い知らされます.

一方,自衛隊の殉職隊員追悼式に一般市民が押しかけるという話は聞いたことがありません.追悼式は防衛省敷地内部の慰霊碑地区で防衛大臣の主催で行われるので,遺族以外の一般市民は行きたくても行けないのですが.今年は石破首相も出席してつい先日10月11日に行われました.殉職隊員のご冥福をお祈りします.

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