映画・テレビ

2021/08/06

日本のスポーツ報道の異常

オリンピックもそろそろ終わり.どのチャネルも連日オリンピック報道で忙しそうなのですが,もともとスポーツ観戦に興味のない私は,疎外感を味わいながら,録り溜めたドキュメンタリー番組などを観ております.

ただメディアがちょっと異常ではないかと思ったのは,どのチャネルでも日本人選手が出ていない競技は無視されていること.出場していても入賞の見込みがない競技は中継はおろか報道すらされていないことです.例えば,陸上競技のほとんどのフィールド競技,カヌー,自転車ロードレース,馬術,ホッケー,近代五種,ボート,射撃,水球,テコンドー,などなど.

1964 年の東京オリンピックの際には,国民の啓蒙の意味合いもあったのでしょうが,もう少しまんべんなく各競技が中継,報道されていたと思います.それに比べると今回のメディアは非常に偏った扱いをしていると感じます.

一方,オリンピックよりも格上の大会があって,毎シーズン超一流選手どうしのプレイを観戦できるサッカー,ラグビー,テニス,野球,ゴルフなどを,日本人選手が出ているという理由で長時間中継するのは退屈で時間と電波の無駄.そもそも超一流選手がほとんど出場していないので,競技に華がありません.

私はセイリングのレースが中継されることに興味があったのですが,ちらっとニュースに出た程度でした.有料のスポーツチャネルでは中継されていたのでしょうか?ヨットレースの中継は技術的に難しいのですが,アメリカズカップの中継を見ると,血沸き肉躍る格闘技の趣があります.今回の大会ではセイリングは 10 種目もあるので,そのすべてを中継することは期待しませんが,ウィンドサーフィンくらいは中継してもよかったのでは?

日本人選手不在のプレイを無視するこの傾向が日本のメディアで始まったのは,松井秀喜ヤンキーズに入団したころに遡ります.メディアが視聴率稼ぎで易きに流れたのです.私の知人が「日本のスポーツ報道のスタイルが変わってしまった」と嘆いていたことを思い出します.野茂英雄の時代には,野茂自身の活躍だけではなく,チーム全体,あるいはリーグ全体の報道が行われていました.それを通じてアメリカのプロ野球全体を知る良い機会だったのです.

この傾向がさらにひどくなったのは大谷翔平の活躍が目覚ましくなったここ 1 年ほど.彼の一挙手一投足を詳細に報じる割には,チームメイトや対戦相手のプレイなどはほぼ無視されています.そもそも現在では日本人選手が出ていない MLB の試合が中継されることはありません.昔はそうでもなかったし,今でも有料のスポーツチャネルを契約すれば別なのでしょうが.

スポーツ観戦の楽しみは,自国の選手だけに興味があって観るものではないはずです.世界の超一流クラスの選手たちのプレイを観ることは,日本人選手がいるいないに関係なく,興奮させられ,感嘆させられ,味わい深く,意味あるものです.もう少し幅のあるスポーツ報道をしてもらいたいものだと思います.

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2020/08/30

フライトシミュレーターマニア必見

ハドソン川の奇跡 [Blu-ray] - トム・ハンクス(出演),アーロン・エッカート(出演), クリント・イーストウッド(監督)

久々に映画のレビューです.ひところより観る本数は減ったものの,今でも年に50本程度は観ているのですが,ここでレビューしたくなるほどの作品にはなかなかお目にかかれないので,レビューの回数が極端に減っていました.

今回は最近の有名な実話を映画化したもので,CG 使ったアクション,映画のために購入した実機と,実際に救助に参加した人たちを動員したリアルな救出劇はあるものの,全体としては主人公の心理的葛藤を描いた密室劇に近い演出と言ってよいでしょう.ストーリーは爽快に終わり,かつエンドロールに素敵な仕掛けがしてあるのが見どころです.

真冬のニューヨーク.ラガーディア空港を離陸直後の旅客機エアバス A320-214カナダガンの群れに遭遇し,バードストライクによって両エンジンとも損傷・停止.ラガーディア空港に引き返そうとしますが,高度が低く,推力を失ったエンジンで滑空を続けていては着陸できないととっさに判断した機長は,ハドソン川への不時着水を試み,これが見事成功します.

一躍英雄になったものの,安全運輸委員会は,空港に引き返せたのに機長が誤った判断をして乗客と機体を危険に晒したと憶測し,コンピュータシミュレーションや,飛行シミュレーターでの着陸成功の結果を引っ提げてネチネチと攻めてきます.さあ,どうなる?

最近の実話なので主人公の風貌も実話の本人に近づけてあるようで,主演のトム・ハンクスが白髪のパイロットだったのには驚きました.映画前半は,事故直後にホテルに缶詰めにされた機長の心理的葛藤と過去の回顧が交互に繰り返されるのですが,この部分はあまり良くありません.ストーリーラインをもっとすっきりさせてほしかった.

後半は大人数を前にした公聴会ですが,ここが大変面白いこの映画のハイライトです.エアバス社のシミュレーターで何度も着陸を試みさせます.このシミュレーターは本物だと思いますが,最近のジェット旅客機のコックピット,フライトコントロールシステム,パイロット支援システムがどのようになっているのか,よくわかります.高度が下がりすぎると "Pull up" と妙に冷静な声で何度も警告が出るのが印象的でした.

最後はパイロットの直感が正しかったことが証明されて,めでたしとなるのですが,実話では安全運輸委員会が早々にパイロットの判断を支持していたそうです.これはパイロットや航空機に関わる人口が非常の多いアメリカならでは,現場のことを良く知っている人たちが調査に関わっていたということでしょう.実際35秒の遅延時間を入れたシミュレーターフライトが行われて,飛行場に引き返していたら墜落,それも下手をすると市街地に激突という結論を得ていたそうです.これは劇中でもそのまま再現されました.

エンドロールが大変素敵です.事故機は博物館に移送されたのですが,それを記念して当時のパイロット,客室乗務員,そして乗客たちが機体の前で同窓会パーティをやっている様子が音声付きで披露されます.ここが本当に素晴らしい.監督クリント・イーストウッドの粋な演出です.

この映画を見ていると,発売されたばかりの新版の Microsoft Flight Simulator が欲しくなってしまいました.20年ほど前の旧版では,セスナをよたよたと着陸させるだけで精一杯だったのですが.

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2019/08/06

イギリスの神髄を守る者たちの心のひだ

日の名残り [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray] - アンソニー・ホプキンス(出演),エマ・トンプソン(出演)

重厚な作品です.第1次世界大戦と第2次世界大戦のはざまの時期に,ドイツに融和的なイギリスの貴族に使えた執事と使用人たちの物語.日本にはこのような職種に就いている人は極めて少数なのでなじみが薄く,執事や使用人たちの仕事の内容や日常生活を垣間見るという意味でも楽しめました.

原作者は日系イギリス人のカズオ・イシグロ.つい最近ノーベル文学賞を受賞したということで,作品の評価も高まったことでしょう.

物語は回想形式で始まります.第2次世界大戦後に,かつて仕えた貴族の屋敷が売りに出され,それをアメリカ人の富豪が買って暮らし始めます.新しい主人への仕え方に悩んでいた時,主人から休暇をもらい,かつての女中頭(ハウスキーパー)を訪ねるという風に物語は始まります.そこから1930年代の回想シーンへ話が飛んでいきます.

イギリス貴族の暮らしぶりを忠実に描いているのだと思いますが,その重厚さがよく表現されています.特に賓客を招いて外交問題を議論する会議を行うときの舞台裏を描くことで,貴族の館を運営するとはどういうことかがよく理解できるようになっています.これは原作のおかげか?それとも演出のおかげか?仕える主人への忠誠,執事としての矜持と誇り,豪華なお屋敷と調度品,古き良き時代のイギリスの神髄を見ることができます.本当にこういう世界があったのですね.

使用人たちも人間なので,それぞれの事情があり,考え方があり,人生があります.それを主人の側とどのように折り合いをつけていくのか,みな頭を悩ませながら生きていかなければなりません.しかしこの執事は,自らの内面を顔に出すことはなく,仕事の同僚である自分の父親が屋敷内で息を引き取ったときですら接客を優先したのでした.淡い恋心を抱いていた女中頭から他の男と結婚するので辞めたいといわれた時にも,儀礼的な挨拶をするのみ.しかし内心どうだったのだろうと観る者が思わずにはいられない,そういう演技や演出がこの映画の見どころです.

主演のアンソニー・ホプキンズはまさに適役.この重厚な執事の役を見事に演じました.仕事への献身ぶりを全身で演じたところは見事としか言いようがありません.メソッド演技法に批判的なホプキンズが,それによらずにどのような演技を行えるのか,この作品をじっくりと鑑賞するとよいでしょう.また,この人の演技は表情の作り方が独特ですが,同等レベルの演者としてはメソッド演技法の実現者であるジャック・ニコルソンがあげられると思います.この二人の演技を比較してみることは非常に興味深いです.

エマ・トンプソンも大変良かった.気配りができてちょっと気の強いベテランの女中頭を大変うまく演じました.「いつか晴れた日に」で共演したケイト・ウィンスレットが出演者に入っていてもよかったと思いますが,ちょっと贅沢すぎるか.若いころのヒュー・グラントが軽めの脇役で出ているのですが,よく観ないと本人とはわかりませんでした.あとジュディ・デンチが出てくれば,もう言うことはなかったですね.

映画が大変良かったので,原作を読んでみようと思っています.

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2019/02/02

やっぱりよく出来ていたミッドナイト・ラン

ミッドナイト・ラン ユニバーサル 思い出の復刻版 ブルーレイ [Blu-ray] - ロバート・デ・ニーロ(出演),チャールズ・グローディン(出演)

NHK BS で放送されたものを録画して楽しみました.もともと非常に有名で人気の高い作品だそうですが,実は私は今回初めて観ました.もともとロバート・デ・ニーロは好きな俳優の一人なのですが,その若いころの代表作と言っても良いこの作品を観ることができて,大変幸せに思います.

いわゆるロードムービーの一種なのですが,犯罪サスペンスのコメディとして作られており,ロードムービーとしても,サスペンス・コメディとしても楽しむことができます.この映画を理解するためには,アメリカの司法制度独特の保釈金専門金融ビジネスを理解する必要があり,その知識が無かった私は,一体こいつは警官なのか?それとも探偵なのか?それとも?と訳が分からなくなりましたが,Wikipedia のこの記事を読んで納得.さらに州をまたいだ犯罪を取り締まる専門組織 FBI の役割も理解しておく必要があります.

そういう中途半端な予備知識で観始めたのですが,ロバート・デ・ニーロがほろっと笑う笑顔はこの頃からのものであることがよくわかります.私はこの笑顔が大好き.各所に用意されたギャグ,テンポの速い軽快な展開で楽しめるのですが,主人公がなぜ警官を辞めてこのような商売をしているのかが徐々にわかってくると,がぜん主人公を応援したくなってくるという仕掛けになっていて,まあとにかくよく出来たシナリオです.連れ戻される被告人の会計士との会話が徐々に意味を帯びていき,最後は爽快な結末につながるのですが,このあたりの主人公の感情の移ろいも非常にうまく描写されていると感じました.

タイトルの “Midnight Run” とは「ちょろい仕事」というような意味だそうですが,簡単に片付くはずの仕事が次から次へとトラブルに巻き込まれて紆余曲折を重ね,何とかギリギリのところで期限に間に合う,というハラハラ感を観客に味あわせるという思惑は残念ながらハズレ.そのハラハラ感よりも別の重要な期待が盛り上がってくるので,まあ仕方ないですね.

ロバート・デ・ニーロの近作では,3年前だか,飛行機の中で観た “The Intern” は,現在の私の境遇に重なるものがあって,大変楽しむことができました.

今頃なぜ NHK BS で放送されたのか,このポストのタイトルをクリックして現れる Amazon Japan の作品のページを見るとよくわかります.“吹替映画史上最高傑作” と評される TV 朝日放映版に追加収録を行った完全版吹替がブルーレイで発売されたそうで,それに触発されたものではないでしょうか?私も買ってみようかと思います.

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2018/07/08

勇気ある追跡とトゥルー・グリット

勇気ある追跡 [DVD] - ジョン・ウェイン(出演), グレン・キャンベル(出演)

トゥルー・グリット [Blu-ray] - ジェフ・ブリッジス(出演), マット・デイモン(出演)

再び映画のレビューを書きたいと思います.今回は二つの映画ですが,後者は前者のリメイクなので,実際は一つのものと思ってよいでしょう.父親を殺された娘が仇を討つために連邦保安官を雇って追跡するというお話です.オリジナル版とリメイク版のシナリオやセリフにほとんど差がないのが意外なところですが,これはどちらもが原作に非常に忠実だったためか,それとも後者が前者の脚本・演出を尊重したのかはわかりません.しかし,西部劇の中ではスタンダードとなったものの一つと言ってよいと思います. “OK牧場の決闘” ほどではありませんが,良く知られた話であることには違いありません.

古いほうの “勇気ある追跡” は,主演がジョン・ウェイン,助演がグレン・キャンベル,悪役側にデニス・ホッパーという人気俳優を配し,それなりに売れそうな,売れるべき西部劇として仕立て上げられています.しかしそのためか,隻眼でアル中の連邦保安官のダメさ加減やアクの強さは最低限に抑えられており,あくまでジョン・ウェインのファンが見て楽しめる映画,歌手グレン・キャンベルのファンが主題歌とともに楽しめる映画となっています.まあ,1969年の映画なのでこれは当然でしょう.話の結末もハッピーエンドとなっています.

一方,後者はコーエン兄弟監督製作,スピルバーグ製作総指揮というマネジメントからもわかるように,現代的な西部劇として製作されており,前者よりもはるかにリアリティを追求しています.小さなところでは銃の発射音しかり.ガラガラヘビに腕をかまれた主人公の少女が,結局は腕を切断しなければならなかったという結末は前者にはなかったものですし,25年後にワイルド・ウェスト・ショーに出て生計を立てなければならなくなっていた元保安官が死んでしまったという筋立ても,西部開拓時代の終わりを告げるほろ苦い余韻をもたらします.

後者の保安官役ジェフ・ブリッジスは非常に存在感のある俳優なのですね.ジョン・ヒューストンばりです.私はジョン・ウェインよりもこの人の演技のほうが好み.ジョン・ウェインがライフルを回しながら連射するシーンはファンへのサービスとしか思えないので.この人がアカデミー主演男優賞をとったクレイジー・ハートを私は観ているはずなのですが,なかなか思い出せません.

少女役はどちらの映画でも非常にうまい.本来の才能が開花したのか,それとも監督の演出が良かったのか,頭が切れて勇気があり覚悟のすわった生意気な少女を非常にうまく演じています.ちょっと早口過ぎてよく聞き取れないのが私にはつらいところです.

これら2作を立て続けに観るのは非常に面白いので,ぜひ試してみることをお勧めします.

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2018/07/04

山猫

山猫 4K修復版 [Blu-ray] - バート・ランカスター(出演),アラン・ドロン(出演)

映画のレビューを書くのは1年ぶりです.レビューを書くだけの気力が無かったというのが正直なところです. “山猫” というこの長編映画を観たのはこれで2度目.今回はイタリア語・完全復元版ということで,前回観た時にはなかったシーンが含まれていたように思いますが,とにかく前回観た時の印象は舞踏会のシーン以外かなり薄れているので,今回の鑑賞を中心にレビューしたいと思います.

この映画の本質を私なりの解釈で要約すると,時代の流れで没落することが運命づけられたシチリアの由緒ある貴族が,その慧眼で時代の流れを深く悟った上で,時流に乗ることで没落を逃れようとはせず,あえて古風な価値観としきたりに従って「正しく」没落することを選ぶ,その悟りと没落の美学を美しい映像で描いた叙事詩,だと思います.しかも,俗物だが時流に乗ることに長けた甥には,わざわざ新興勢力の市長の娘との縁談を用意してやるという気配りまで見せます.

この本質は,映画の後半,有名な舞踏会のシーンの直前,政府からの使者が貴族院議員への就任を要請し,それを断るときの見事な対話のシーンに表れています.このシーンこそこの映画の白眉であり,その後の延々と続く美しい舞踏会のシーン,ロウソクのみの照明にこだわったあまり,出演者は汗を拭き拭き演技せざるを得なかったという有名な数10分は,没落直前の貴族社会の輝きを最大限演出するための監督のサービスに過ぎません.

荒涼としたシチリアの風景,砂埃が舞う道路,そしてローマ時代から支配者が入れ替わることが続いた歴史の重み,そのような背景をたっぷりと見せたうえで,考証を重ねたであろう豪華な調度と衣装で豊かな貴族の世界を垣間見せます.この映像美はヴィスコンティならではのもの.

しかし意外にもアメリカ人とフランス人の俳優を中心に据え,イタリア語のセリフは吹き替えで済ますという思い切りの良さはどうしたことでしょう?私が解せないのはこの配役です.なぜイタリア人を使わなかったのか?せめて地中海世界の俳優を使うべきではなかったのか?なぜバート・ランカスターと,フランスではそれほど人気のないアラン・ドロンを使ったのか?これは今でも疑問に思う点です.

もちろん,バート・ランカスターの演技は見事で文句を言う筋合いではありませんが,しかし違和感が残るのは正直に告白せねばなりません.では誰だったら良いのかと問われても,当時の俳優群を知っているわけでもないので,答えることはできません.困りましたね.

全編で3時間を超える大作なので,一気通貫で観る人は少ないかもしれませんが,やはり見ごたえはあります.ヴィスコンティの映像美へのこだわりには感動させられます.高解像度の大型画面で観ると,いかに金をかけた映画かがよくわかると思います.歴史に残る大作の一つであることは間違いありません.超おすすめです.

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2017/06/18

身に沁みるロードムービー

ネブラスカ ふたりの心をつなぐ旅 [Blu-ray] - ブルース・ダーン(出演),ウィル・フォーテ(出演)

ここ数年間私にまとわり付いていた心境に深く入り込んだ,ロードムービーの傑作です.アメリカ映画はロードムービーの宝庫です.その中でも心を惹かれるロードムービーの典型は,ある程度まともな主人公が,理解不可能,あるいはかなりいかれた身内の人間の勝手な行動に付き合う羽目に陥るのですが,共に旅をするうちに,相手の真意,そしてそのやむにやまれぬ心情を知るに至り,その相手に深く共感し和解する,というシナリオが多いように思います.私が最近見た映画のなかでのこれは傑作と言えるものは, “パリ,テキサス” がその代表だと思いますが,人気のある所では,“レインマン” や “ペーパームーン”, “オー・ブラザー!” などがありますし,アメリカ以外では例えばブラジル映画の “セントラル・ステーション” は傑作の一つに挙げてもよいのではないかと思います.

そんな中で,この映画の何が良かったのか?一言でいうと,中年男性が,老いて認知症を患う父親に手を焼きながらも,父親の過去を巡る旅に出るうちに,父親の思いと真意を深く理解し強く共感すると同時に,全く合理的ではないけれどもその思いを叶える行動に出る,というヒューマン・ドラマが実に良いのです.

そして,これは同じような経験をした者でなければなかなかわからないだろうな,という点で観るものを選ぶ映画でもあります.私がそう思うのは,ここ数年この映画の登場人物と同じような経験を続けているからにほかなりません.

認知症の家族の介護は,忍耐力を問われる仕事です.全く不合理,不条理な主張や行動に付き合っていかなければなりません.ときには怒りがこみあげてきたり,大声で叱りつけたり罵倒したりしたくなる衝動と闘わなければなりません.それを毎日繰り返すことの辛さは,経験したものでなければわからないと思います.

この映画の主人公も,当初はそういう思いを内部に溜め込んでいたように描かれています.しかし,父の故郷に一緒に行き,父の旧友の老人たちと会って話をするうちに,父は決して間違ってなどいない,無理難題や不道徳なことを要求しているのではない,むしろ旧友たちのほうがあざとく,父をあざけり食い物にしようとしているということに気づきます.

そして,父がそのために旅に出た半分詐欺に近い宝くじの当選の知らせは,もちろん人を誘い出すためのきわどい嘘で,息子は最初から分かっていたのですが,落胆する父の姿を見てついに息子は父の思いを無条件で支持する行動に出るのです.これが非常に感動的ですが,ピックアップ・トラックと工事用コンプレッサを買ってあげるというのが,アメリカの田舎を象徴していて実に渋い.

父親を演じたのは名優ブルース・ダーン.非常にいい味を出しています.認知症の現実をよく知ったうえで演じているのではないかと思います.この映画の演技でカンヌの男優賞を取りました.監督・演出はかのエリア・カザンアクターズ・スタジオの創設者の一人であり, “欲望という名の電車” の演出で一躍世に出ました.ブルース・ダーンもこの学校の出身者.

息子役のウィル・フォーテは,認知症の父親に手を焼く息子を見事に演じるとともに,終盤,父親の思いを叶えるために行動に出た息子の強い意志を非常にうまく表現しました.

思いのほか良かったのは,母親役のジューン・スキッブ.夫との共通の故郷で,若いころ自分の尻を追い回した男の墓の石にスカートのまままたがり,“ほら,見たかったものを見せてあげるわ” と悪態をつくシーンが最高です.この映画での演技はたくさんの映画賞にノミネートされました.

カンヌでパルム・ドールを争っただけあって,非常に見ごたえがあり,お勧めです.

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2016/10/16

やはり名作,買いは映像美

あの子を探して [DVD] - ウェイ・ミンジ(出演),チャン・ホエクー(出演)

長い間,観なければと思っていながら観ていなかった作品です.しかし観始めてみると,ストーリの流れを追うよりも前に,これはレベルの高い作品であることがわかります.

直ちに感じたのは映像美です.中国の乾燥地帯,黄土高原でしょうか,彩度を適度に抑えた緻密な映像に胸ぐらを掴み取られます.特に屋内の撮影での照明が見事.この映画が撮られたのは1999年.この頃の中国でこの映像の美学があったとは驚き.後の韓国のテレビドラマの照明のひどさにを知ったうえでこの作品を見ると,当時の中国に照明の美学がすでにしっかりとあったことに驚かされます.監督のチャン・イーモウは手練れの映画監督として世界的にも有名な人ですが,撮影した人,映像の責任者は誰だったのでしょう?彩度の調整があまりに見事.

ストーリーはそれほど凝ったものではありません.代用教員のウェイが失踪した生徒を探したいという一途な思いが,たとえそれが代用教員の報酬の条件と当初は関係があったとしても,執拗なまでに描かれていて,この映画の主軸となっています.一方,代用教員のウェイが生徒や村長や街の人たちと交わすやり取りは,自らの利益を最大限に主張しあう中国の,というより日本以外の世界の標準を嫌というほど思い知らされます.

素人の役者をどれくらいの期間訓練して撮影に臨んだのか,主役も脇役も非常に自然な演技で,演出の出来には驚かされます.特に主演のウェイを演じた少女の表情の演出はなかなか見事です.過剰でもなく過少でもなく,一見無表情に近い演出にも見えるのですが,少女の内面がじわじわとにじみ出てくるレベルに持ってくることができた演出は大したものです.

出稼ぎの請け元から逃げたホエクーが,空腹のあまり飲食店の客席をうろつくのを見かねた店主が,食事と職を与えたエピソードは,ストーリー終盤の一服の清涼剤となっています.と同時に,代用教員のウェイが,飲食店のテーブルの丼の残り物を貪るシーンも印象的です.このような光景は,中国大陸でも,日本の街中でも,以前は見られた光景だったはずです.

クライマックスは何といっても,代用教員のウェイがテレビ番組の中で涙ぐみながらホエクーの所在を求めるシーン.そしてそのテレビの画面を雇われ先の飲食店で見て感極まるホエクーの表情.非常によくできていて,何テーク目で監督のOKが出たのかはわかりませんが,見事なものです.

チャン・イーモウ監督のファンであれば,当然観ておくべき作品.お勧めです.

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2015/09/20

プレイステーション逝く

先週末,システムソフトウェアのアップデータが出ていたので,プレイステーション3を立ち上げてデータをダウンロードしアップデートを試みました.ところがアップデートの進行が99%になったままいつまで経っても終了しません.

やむなく電源ボタン長押しで強制シャットダウン.再立ち上げしてファイルシステムの修復を試みたのですがうまくいかず.それではというのでセーフモードで起動し,ファイルシステムの修復やらシステム全体の初期化を行い,いったんは正常に立ち上がったように見えたのですが,どうもシステムが不調.やたらと反応が鈍い.えらく遅いクロックで動いているような感じです.内臓HDDがおかしくなったのか,それとも本体の回路に熱で障害が起きたのか?なかなか切り分けができません.

窮余の策で,HDDを取り出してPCで内容を初期化し,プレイステーションに戻してシステムソフトウェアをUSBメモリからインストールしてみたのですが,ファイルシステムの初期化が完了できず.再度HDDを取り出してPCでパーティションを切りなおしてみるのですが,今度はそれすらもできなくなっていて症状はどんどん悪化していきます.

この時点でHDDの修復は諦め,新たなHDDを買ってきて自力で回復を目指すか,それともこのプレイステーションはお払い箱にするのか決断を迫られました.HDDの相場を調べてみると6,000円程度の出費は必要ですが,復活の保証はありません.また最近ではゲームはほとんどやらず専らブルーレイディスク再生機として使っていたので,ゲーム機としての復活は諦め,必要最小限の機能のブルーレイ・プレイヤーを買うことにしました.値段を調べてみると,10,000円そこそこで買えるではありませんか.消費電力も圧倒的に少なくて済みます.壊れたプレイステーションは故障機として売却することにしました.

おりしも,プレイステーション4の価格が10月1日から5,000円安くなるというタイミングだったのですが,もうゲーム機を買うことはありません.人気のあるゲームタイトルはそこそこ高価ですし,AV機器として見た場合,プレイステーション4はプレイステーション3に劣るというのも一つの理由です.

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2015/05/10

抜群の色彩美の異色西部劇

血と怒りの河 [DVD] - テレンス・スタンプ(出演),カール・マルデン(出演)

しばらく前に NHK のプレミアムシネマで放映されたものを録画して鑑賞したのですが,普通の西部劇とはだいぶ違います.主演はイギリス人俳優.舞台俳優出身ではないか思われる抑制のきいた心理表現が光ります.こういう演技は西部劇に出てくるアメリカ人俳優にはなかなか見出し難い.強いて言えば,OK コラルの銃撃戦を描いた作品の一つ “荒野の決闘” でワイアット・アープを演じたヘンリー・フォンダが一番かなぁ?

ストーリーは西部劇としては異色のものながら,途中まで見るとその後のストーリー展開は容易に想像がつく単純なものです.自分の属する民族への帰属意識と,それとは相容れない育ての親への忠誠心に心を引き裂かれる若者の話ですから,結末は悲劇と決まっています.

この映画を見てすぐに気付いたことは,プリントの美しさです.特に色彩が素晴らしい.これほど美しい色彩の西部劇はそうそうありません.この映画が撮られたのは1967年か1968年なので,もう50年ほど前の映画です.スクラッチが一切無く,音声トラックも非常に良いので(古い邦画のひどい音声トラックとは大違い),きっと周到なリマスタリングが行われたのでしょうが,それにしてもこの色彩の美しさはどうしたことでしょう?特に彩度の調整が絶妙です.派手すぎず,しかし渋すぎず.私はストーリーを追うことを忘れ,色彩の美しさを楽しむことに意識を集中させてしまいました.

この映画ではアメリカとメキシコの国境を流れる河が重要な舞台装置になっています.お決まり通りであれば,これは Rio Grande のはず.その名前は出てこなかったのですが,エル・パソという地名は出てきたので間違いないと思います.この川の両岸の風景が大変美しく描かれていて,その映像美を楽しめます.撮った監督が映像美にこだわる人だったのだろうと想像しています.

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