明けましておめでとうございます.皆様にとって昨年はどのような一年だったでしょうか?私も昨年を振り返り,今 年の展望について思うところを書いてみたいと思います.
昨年も新型コロナウィルス SARS-CoV-2 によるパンデミック COVID-19 が継続しましたが,新しい株は無症状か軽症が多く私たちも対策に疲れてきたことから,だいぶ緊張感が緩んだと思います.欧米ではとっくにマスク無しの通常の生活に戻っていますし,日本でも新たな感染のピークが予想されながらも,行動制限は緩和されたままです.このままインフルエンザなみにまで影響度が落ちれば,パンデミックも一段落ということになるのでしょう.長い 3 年間でした.しかしインフルエンザで亡くなる人は少なくないことも忘れてはいけません.私は昨秋もインフルのワクチンは打ちました.
私自身に関しては,昨年も書いた通りコロナ禍の直接の影響は何も受けていません.東京には年に 1, 2 回しか行かないので人混みとは無縁.この 3 年間で電車に乗ったのはたった 6 回ほど.田んぼを見下ろす高台の自宅で規則正しい日課を続けており,仕事に行かない日の午前中はおもに学び直しのお勉強.昼食後に 1 時間ほど散歩して,帰ってからは写真のレタッチやブログの記事の更新などを行い,夕方になるとビールを飲みながら録画しておいた映画やドキュメンタリーを観ています.
昨年は引退 5 年目でした.春に非常勤の仕事を退任したので暇になってしまったのですが,登録しておいた派遣会社から夏になって声がかかり,秋から地元の産総研でドローンの開発の手伝いをするようになりました.ただしもうフルタイムで働きたくはないので,一週間のうち二日程度のパートタイム勤務です.地方なので通勤には車を使わざるを得ず,筑波研究学園都市の朝晩の渋滞にはうんざりしています.
仕事の内容は私の専門の流体力学に関するもので,固定翼ドローンの空力性能の予測が主なものです.まあちょっと変わった形の模型飛行機と思って間違いありません.そのため模型飛行機や人力飛行機の愛好家のコミュニティで使われているツールをもっぱら使っています.最初は NACA の翼型の復習から始め,次に XFOIL の後継である XFLR5 という翼型評価ツールを使って 3 次元の機体の空力計算に手を付けたのですが,私たちが開発中のヘンテコな機体形状に対しては役不足だったので,NASA Ames で開発された OpenVSP という 3D モデリングツールに乗り換えて今に至っています.
OpenVSP は XFLR5 と比較するとより多様な形状を作成できます.また XFLR5 と同様に渦格子法やパネル法を用いた空力計算も出来るので,機体の空力係数や表面圧力分布を見て設計にフィードバックできます.しかも NASA 公認のフリーソフトであり,ノート PC でも十分に動き,ユーザーズコミュニティも活発で開発者や世界のユーザーと質疑応答ができます.何か質問すると開発責任者から 15 分後に回答が来て驚いたことがあります.また膨大な量の公式チュートリアルが You Tube にアップされています.良い時代になったものです.
半面 XFLR5 に較べると日本のユーザーは非常に少なく,学生や研究者が形状設計に使った論文はあるものの,使い方に関する解説記事はほとんど見たことがありません.XFLR5 は日本の人力飛行機コミュニティに対してすでに十分な機能を提供しており,それに比べると OpenVSP はオーバースペックなのかもしれません.しかし多様な形状のドローンの設計にはこちらのほうが向いています.十分に使い込んだら解説記事でも書きましょうか?
というわけで学生時代に戻ったかのように目を輝かせながら生き生きと仕事をしていると自分では思っているのですが,傍目には,しかめっ面で顔のしわを深くしたジジイが,眼をしょぼしょぼさせてディスプレイと睨めっこしているのでしょう.それでも一派遣労働者として謙虚な態度で仕事をしているので,周囲の若い人たちからはそれほどウザいジジイとは思われていないと信じております.だよね?
日課となった学び直しは,独習に限界を感じながらもよたよたと進展中です.一昨年に公理論的な量子力学を勉強してえらく気分が良かったので,同じ著者が書いたこれまた公理論的な熱力学の教科書上下 2 巻に取り組みました.引退初期にも田崎本を読んで味をしめていたのですが,その再現を狙ったものです.
これがドンピシャリの大正解で,熱力学の理論体系を非常にすっきりと理解できたと思います.特にこれまで現象論を理解するレベルで終わっていた相転移の熱力学を理解できたことは大きい.相図の読み方がよくわかりましたし,三重点内部でも理論が破綻せずに定式化できるところがすごい.温度や圧力などの示強変数を使わず,エネルギーや体積などの相加変数を理論の基礎に置いたことの成果です.
理論体系が非常に頑強にできているので,例えば強い重力場のもとで相対論的効果が無視できないような場合でも,便宜的な仮定を密輸入せずに温度などを理論自身から定義できます.ブラックホール近傍の温度はこのように補正されるのだと思うと非常に興味深いです.これで熱力学は卒業できたと思っているのですが,まだ情報熱力学には未練が残っているので,近い将来手を出すかもしれません.
次に手に取ったのは Amazon の書評で評判が良かった一般相対性理論のコンパクトな教科書.物理学者ではなくてエンジニアが書いた異色の本です.しかしこれは失敗でした.まず本の字面,特に数式が異常に読みにくい.数式に不慣れな編集者と印刷屋が関わったのでしょうか?さらに相対性理論のキモである,座標系に拠らない普遍的な物理法則を記述するためにテンソルという数学的ツールが必要で,そのために四元化を行うのだというポリシーが良く説明されていません.このために,複雑な曲率テンソルの式は追えるようになり,言われるがままにアインシュタインの重力方程式にたどり着くことはできるものの,なぜこれで良いのかは理解できないままです.
このような内容にも関わらず Amazon で高評価を集められることが不思議です.私は Amazon では低めの星 2 つ★★☆☆☆の評価としました.一般相対性理論についてはもう少しまともな,しかしあまり数学寄りではない教科書で学べないか探索中です.
さて今年は再び量子力学の,それも解釈の問題について論じた本を読もうと準備しています.コペンハーゲン解釈や多世界解釈などです.昨年ノーベル賞を受賞した量子もつれとも深い関係があります.読みこなせるかなあ?
健康面では尿路結石の再発は無し.コレステロールの値も正常値の範囲内です.平穏な一年間でした.白内障も経過観察中.進行が遅いので医者も手術しましょうとは言い出せないようです.いずれは多焦点眼内レンズを入れたいと思っているのですが.
ところで一昨年の定期健診で体重と腹囲の増加,さらには血圧の上昇が発覚して不名誉な思いをしたので,そのリベンジを果たすべく昨夏はダイエットを敢行し,秋の定期健診までに体重を5 kg ほど絞ることに成功.健診では腹囲も血圧も正常値に収まってホッとしました.ダイエットのコツがわかったので,今年も基礎代謝が落ちる夏場には実行しようと思います.
趣味の写真については特に変化はありません.相変わらず SONY の高倍率ズーム・デジタルカメラだけを使っています.世の中ではミラーレス一眼がいろいろ出てきて面白そうなのですが,野鳥を撮ろうと思うと長く重たい超望遠レンズに手を出さざるを得ず,私ごとき年金ジジイでは金力も筋力も不足です.新たに買うとすれば APS-C のミラーレス一眼になるのですが,APS-C 用にはなかなか良いレンズがありませんね.今なら FUJI か? Canon か?
PC のハードウェアも更新無しです.本当は昨年中にメインマシンを新調したかったのですが,半導体不足とやらでパーツが高騰.夏あたりからようやく需給が緩んでメモリーは買いやすくなりましたが,マザーボードやビデオカードは円安の影響もあって高騰したままです.今週の CES で Intel が新しいプロセッサファミリーを追加発表するはずなので,それをよく見た後で春ころまでにマシンを更新したいと考えています.
と,そういう欲求不満が溜まっていたのでしょうね,年末になってハッと気が付くと,メインマシンの OS をいつの間にか Windows 11 にアップデートしていました.いつやったのでしょうか?もう一人の自分がいるのでしょうか?恐ろしいことです.今のところ大きな不具合には遭遇していませんが,小さな不具合にはそこそこ出くわしています.そのうちこれは個性なんだと諦められるようになるでしょう.
昨年はタダ同然で手に入れた Kindle 版の宮本武蔵(吉川英治)を読み終わり,さらに続けてやはりタダ同然の半七捕物帳(岡本綺堂)を読んだのですが,これが非常に面白くて楽しめました.捕物帳ジャンルの嚆矢となる作品なのですが,とにかく化政から幕末の江戸の情緒や風情というものが活写されているところが素晴らしいです.今では失われてしまった言葉も多く出てきます.たとえば「ご新造さん」.惜しまれる言葉です.詳しくはこちらのレビューをご覧ください.
その後は吉川英治の私本太平記を Kindle 版で読みましたが,非常に長いわりには盛り上がりが無くて十分には楽しめませんでした.しかし鎌倉幕府がどのようにして滅び,その後南北両朝の鼎立を経て室町幕府がどのようにして形成されたのかはよくわかりました.ただし終盤は作者が病床で書いたこともあって駆け足での話運びです.オリジナルの太平記とはかなり異なる歴史観,人物観で書かれたようですが,オリジナルを読んだことはないので比較はできません.
しばらく間をおいて,塩野七生さんの若いころの作品,ルネッサンス 7 部作の Kindle 版を購入して読み進めているところです.しかし著者自身が吐露しているとおり,若い作者の例にもれず肩に力が入っていて文章が生硬で読みにくい.文学部の学生の卒業論文を読んでいるよう.歴史を生き生きと語ることができていません.著者後年の「ローマ人の物語」の文体とはまるで違います.したがって読んでいてもあまり楽しく感じません.
まあ買ってしまったので最後までお付き合いするつもりですし,ベネチアの歴史を学ぶには大変良い題材だとは思っています.なにしろベネチアは 2 度ほどくまなく歩き回ったことがあり(1 回目,2 回目),この特異な都市国家がどのようにして生まれ発展し衰退していったのか,大変興味が湧いたので.
昨年観た映画は合計 55 本.強烈な印象が残った映画はなかったのですが,そこそこの佳作を多く観ることができたと思います.まず年末になって観た「地獄の黙示録ファイナルカット」.これまでのバージョンではカットされていた奥地のフランス人の荘園を訪ねる場面をようやく観ることができましたが,素晴らしく手間と費用をかけたシーンでした.年初めに観た「ブレードランナー 2049」もまあまあの出来.「天井桟敷の人々」は名作の誉高い作品.古いパリの風情を映したという意味では面白かったのですが,話の中身やキャスティングは今ひとつ.中国映画「長江哀歌」はベネチアで金獅子賞を取った作品ですが,私に言わせればアジアに異国情緒を感じる欧米の審査員のバイアスがかかったのでしょう,作品自体はそれほどのものではありませんでした.なにより画が汚い.どうも作風が「世界」に似ていると思って調べたらやはり同じ監督でした.それよりはインド映画の「きっと、うまくいく」や,イラン映画の「友達のうちはどこ?」のほうがはるかに良かった.後者のレビューはこれ.年末も押し詰まって,北米線の機内で繰り返し観て大好きになった映画「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」を再び観ることができて満足でした.ま,こんな感じで映画の雑食を続けています.
今年は引退生活の 6 年目に入ります.今年こそは旅行に出かけたり人との対面の交流を増やしていきたいと思っています.皆様も健康第一でお過ごしください.どうかお元気で.
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