科学

2023/12/30

IOC List v14.1 Released

IOC World Bird List v14.1 が予定よりも早くリリースされた模様です.これは 2024 年 1 回目のリリースのはずのものです.前回 2023 年 7 月のリリースから 5 か月ちょっとでのアップデートとなりました.ただし正式なリリース日は判然とせず,IOC の Web site では「v14.1 への移行はほぼ完了したのだが,休暇の季節に入ったため正式な完了は2024年3月だ」とアナウンスされています.このアナウンスがされたのが 12 月 29 日なので,私としてはこの日をリリース日と見なそうと思います.

今回収録されたのはが 44 ,が 253,が 2,381 ,が 11,194 (うち絶滅種が 162 ),亜種が 19,802 です.

前回 v13.2 と比較すると,亜種から種への昇格や新種の登録はまあまあ平均的な数量でしたが,英名の変更が比較的多く,また属の異動(属名の変更)も多かったという印象です.厄介なことに科内のシーケンスの変更が非常に多かったのが今回の特徴です.しばらくは並べ替えで混乱があるかもしれません.

例によって日本のバーダー向けに重要と思われる変更点を書いておきます.

  1. Charadrius leschenaultia オオメダイチドリ,C. mongolus メダイチドリ,C. alexandrinus シロチドリなどが Charadrius 属から Anarhynchus 属へ異動されました.
  2. Charadrius チドリ属内のシーケンスが変更されました.
  3. Chroicocephalus saundersi ズグロカモメが単型属の Saundersilarus に異動されました.
  4. 以下の科内のシーケンスが変更されました.
    Jacanidae レンカク科,Scolopacidae シギ科,
    Turnicidae ミフウズラ科,Laridae カモメ科,
    Stercorariidae トウゾクカモメ科,Alcidae ウミスズメ科科,
    Diomedeidae アホウドリ科,Fregatidae グンカンドリ科,
    Sulidae カツオドリ科,Ardeidae サギ科,
    Cacatuidae オウム科,Hirundinidae ツバメ科
  5. Aldea Intermedia チュウサギの英名が Intermediate Egret から Medium Egret に変更されました.
  6. (参考)Diomedea exulans ワタリアホウドリの英名が Wandering Albatross から Snowy Albatross に変更されました.

2024年 9 月に日本鳥学会の日本鳥類目録改訂第 8 版のリリースが予定されています.すでにドラフト版が公開されており,分類体系やシーケンスは IOC List v13.2 に準拠すると表明されていますので,これでようやく世界の標準に近づくものと期待しています.このドラフト版に基づいた辞書ファイルを鋭意作成中なので,完成次第公開したいと思います.


IOC 本家の Master List(学名と英名を収録した Excel ファイル)を編集して,Refsort/Ruby 用の辞書ファイル(拡張子が .ref のテキストファイル)を作りましたので,Microsoft One Drive 上に設けた “IOC List Archive” にアップロードしました.エンコーディングは UTF-8US-ASCII の2種類です.正版は UTF-8 版で US-ASCII 版は簡易版ですが,詳細についてはユーザーズガイドをご覧ください.


このオリジナル版の辞書ファイルと併せて,全ての掲載種に和名を付与した辞書ファイル 2 種と,IOC Master List の和名追加版(Excel ファイル)も同時にリリースしました.これら和名追加辞書についても,UTF-8 でエンコードしてあるものが正版ですが,Windows などでの使い勝手を考慮して Windows-31J でエンコードしたものも同時にアップしてあります.詳細についてはユーザーズガイドをご覧ください.

単に種名を調べるためだけであれば,和名追加版の Master List(Excel ファイル)が最も便利です.ただし長大なワークシートなので,目的の名前をスクロールして探すのは非効率です.検索メニューからジャンプするのが良いでしょう.


これらのファイルは前述のとおり,Microsoft One Drive 上に設けた IOC List 専用のフォルダからダウンロードできます.それには,このブログ右側のコラムの最上段の Archive の中の IOC List Archive をクリックしてください.そうすると One Drive のフォルダに入ることができますので,あとは適当に選んでダウンロードしてください.


I am pleased to announce that I have posted reference files for Refsort/Ruby compiled directly from the latest IOC World Bird List v14.1. It contains 44 Orders, 253 Families, 2,381 Genera, 11,194 species including 162 extinct ones, and 19,802 subspecies, respectively. Please try it out, and enjoy its capability and speed.

Note that the reference file "ioclist_v141u.ref" is encoded in UTF-8 in order to retain all European accents and umlauts with complete fidelity as they are in the IOC Master List.

For those who want to use Refsort/Ruby in universal ASCII environments, I have posted another reference file "ioclist_v141a.ref" encoded in pure US-ASCII. Note that characters with accents and umlauts have been simplified to their nearest neighbors. So please be careful in particular when you refer to authorities of species.

I have also posted two different reference files "ioclist_v141ju.ref" and "ioclist_v141jw.ref" (encoded in UTF-8 and Windows-31J, respectively) which include Japanese names for all species. If you want to know Japanese names, please refer to those files.

In order to sort a list properly using these reference files, you need to align the encoding of the input file to that of the reference file, and you should add a magic comment specifying the encoding in the first line of these files, such as

#!E -*- coding: UTF-8 -*-

or, add an option "-E UTF-8" into your commandline.

You can skip this process if your iput file is encoded in the default encoding of your platform, e.g., US-ASCII or Windows-31J for Windows, UTF-8 for macOS or Linux.

A master list in Excel format containing a column of Japanese names has been posted as well. This would be most convenient for quick reference.

You can download appropriate files from my area of Microsoft One Drive by clicking “IOC List Archive”. Enjoy, and bon appétit.

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2023/09/09

Refsort on Excel v2.50U released

Refsort on Excel は,Refsort/Ruby (直前の記事をご覧ください)を Microsoft Excel 上で使うためのインターフェースを提供するマクロ埋め込みワークシートです.

今日,さまざまなデータを整理分析するのに表計算ソフトウェアは欠かせないものになっていますが,そのワークシート上に書かれたリストに対して,簡便で直感的なインターフェースで Refsort/Ruby の並べ替え機能を提供します.

元来 Excel の内部では UTF-16 という Unicode の符号化が用いられており,多言語の文字を混在して同時に扱うことができます.しかしこれまでは私の知識不足,能力不足から,扱えるエンコーディングを Windows-31J (Shift_JIS) に限定して Refsort on Excel を提供してきました.

今回の改訂ではこの制約を転換し,UTF-8 という Unicode の符号化スキームに切り替えました.これにより Excel 内部の UTF-16 と整合性が取れて,世界中のさまざまな言語の文字を混在させたリストに対して辞書を参照した並べ替えが可能となりました.

例えば IOC List にはアクセント付きの文字や,ウムラウト,トレマなどを含む文字が多用されています.それらが命名者表記や生息域の地名などに出てくるのは当然ですが,標準英名に含まれている場合もあります.標準英名は並べ替えのキーとして使う場合も多いので特に注意が必要です.例えば Seicercus soror Alström's Warbler が代表的です.従来は US-ASCII や Windows-31J でエンコードされた辞書ファイルではウムラウトを直接扱えないため,ウムラウトのない小文字の o で代用していました.しかしこれはある種の近似を行っていることになり,並べ替え結果を再利用する際に支障が出てくる可能性があります.今回の改訂でそのような近似は必要なくなりました.

当然ながら,そのためには UTF-8 でエンコードされた辞書を使う必要があり,従来とは使う辞書の種類が異なることに注意する必要があります.これまで私が作成して提供している辞書は,日本鳥類目録,IOC List,日本種子植物リストの3種類ですが,いずれも UTF-8 でエンコードしたものも提供してきました.エンコーディングはこれらのファイル名の末尾に付けた接尾辞で区別できます.接尾辞が "u" のものが UTF-8 で,"w" のものが Windows-31J でエンコードされたものです.

あらためて UTF-8 でエンコードされた辞書のリストを示すと,

ファイル名 内容
jpblist_v70p5u.ref 日本鳥類目録改訂第7版
ioclist_v132u.ref IOC List v1.32 オリジナル版
ioclist_v132ju.ref IOC List v1.32 和名追加版
jplant056u.ref 日本の種子植物リスト 新エングラー順

となります.いずれも BOM なし,改行コードが LF のテキストファイルです.

今後,Refsort on Excel v2.50U 以降を使う場合には,辞書ファイルにこれら UTF-8 でエンコードされたものを指定するようにしてください.また利用する Refsort は最新の v3.77 以降が望ましいので,こちらもご注意ください.

使用例のスクリーンショットを示します.IOC List から標準英名にウムラウトが使われているものを集めて,標準英名をキーにして並べ替えを行ってみました.辞書ファイルのキーは第 1 フィールド,入力のキーも第 1 フィールドです.正しく並べ替えられていることがわかります.

Refsort_on_excel_v250u

今回の改訂でようやく UTF-8 を使えるようになったので,多様な言語で書かれたリストに対して Refsort を Excel 上で使えるようになったはずです.詳しい説明は,Refsort/Ruby v3.77 と同時にリリースしたユーザーズガイドの付録をご覧ください.

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Refsort/Ruby v3.77 released

辞書参照型ソーティング・フィルタ Refsort/Ruby (新しいほうから *1 *2 *3 *4 *5)の改訂版 v3.77 をリリースしました.今回の改訂内容は軽微なバグ修正と仕様の改善です.ただし同時に Refsort on Excel も改訂し,こちらは仕様を大きく変更しました.詳しくは次の記事をご覧ください.

今回の修正内容は以下の通りです.

  1. 辞書ファイルに埋め込みラベルが書かれていないときに,コマンドラインオプションでラベル出力を指定した場合の例外処理が不備でしたので,警告文を出力するとともにラベル出力をキャンセルするようにしました.
  2. コマンドラインオプションで -x (Excel mode) または -T(出力のフィールド区切り記号をタブにする)を指定すると同時に,ラベルのコメントも出力するよう,例えば M 1c と指定している場合は,ラベル本体とラベルのコメントをタブで区切るよう変更しました.これは Refsort on Excel での使い勝手を考慮したためです.

このスクリプトは最新の Ruby 3.22 で動作することを確認しています.

Refsort_v377_console

Refsort/Ruby とそれに関連するコンテンツのアーカイブを Microsoft One Drive に置いています.画面右側コラムの Archive の中の Refsort/Ruby Archive をクリックしていただくと,私の OneDrive 上に設けたライブラリが開きますので,そこから過去分も含めてファイルをダウンロードすることができます. Refsort 本体の refsort.rb は refsort_v377.rb というファイル名でアップロードされていますので,ダウンロード後に refsort.rb に変更するとよいでしょう.改行コードも CR/LF になっていますので,適宜変更してお使いください.エンコーディングは純粋な US-ASCII ですので,そのままでよいでしょう.

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2023/08/31

大型翼竜は飛べたのか?

暑かった 8 月は今日で終わり,あすからは暑い 9 月が始まります.もういい加減最高気温が 30 度を切ってほしいと思うのですが,今日も容赦なく 35 度を越えるようです.ただし明け方の気温はこのところ低くなりつつあり,25 度を切るようになってきましたので,もう少しの頑張りと信じたいです.

さて突然ですが大型の翼竜は飛べたのでしょうか?大型翼竜とは,プテラノドンケツァルコアトルスという,とてつもなく大きな翼を持った爬虫類たちのことです.

下の論文から引用した,ワタリアホウドリ (A),プテラノドン (B),ケツァルコアトルス (C) の平面形の比較図を示します.右下には縮尺をそろえた比較図 (D) がありますが,現生鳥類最大のワタリアホウドリと比べていかに巨大な動物たちだったかがわかります.

Witton MP, Habib MB (2010) On the Size and Flight Diversity of Giant Pterosaurs, the Use of Birds as Pterosaur Analogues and Comments on Pterosaur Flightlessness. PLoS ONE 5(11): e13982. doi:10.1371/journal.pone.0013982

Planforms_of_soaring_animals

プテラノドンの翼開長は 7-9 m もあるのですが,体重は 20 kg 程度しかなく,羽ばたき飛行するだけの筋肉はなかったので滑翔するだけだったという説が有力のようです.海上であればアホウドリミズナギドリのようにダイナミックソアリングによって長時間効率よく滑翔できたのではないか?という説もあります.

一方ケツァルコアトルスに至っては,論争はあるものの翼開長は 11-12 m はあったと言われています.体重についても論争があり,飛べるためには 70 kg が上限だという説と,いやいや現生鳥類からの類推は正しくなくて, 200 kg 程度はあったはずで,少なくとも滑翔は可能,羽ばたき飛行もできたのではないかという説もあります.

非常に面白いですね.で,このケツァルコアトルスを検索すると,大きな頭を持った巨大な翼竜が首をぴんと伸ばして飛んでいる想像図にたくさん出くわすのですが,これはダウト!

平面形からわかる通り首は非常に長く,その先端に大きな頭骨と嘴(くちばし)が付いています.ということは,この翼竜の重心は翼に働く空気力の中心(風圧中心)よりもだいぶ前に位置することになってしまい,これでは飛行の縦の安定性が取れません.前につんのめってしまいます.

何を言いたいかというと,縦の安定性を取るためには,ケツァルコアトルスは首を縮めて,サギ類のようにして飛んでいたはずなのです.さらにそのような姿勢でダイナミックソアリングができたかはかなり疑問.海面上の接地境界層はせいぜい 30 m 程度だと思うので,この巨体で境界層の外縁から水面すれすれまでの 30 m を頻繁に垂直方向に移動するのは難しかったのではないか?あるいは境界層外縁を超えて上空 100 m くらいまで上昇してから下降していたかも,しかしそれではダイナミックソアリングの効率はかなり低かったのではないか?

などと思っているところです.平面形が載っている論文を読み始めたところなので,何か追加・修正があればポストしたいと思います.

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2023/08/24

ベクレル becquerel とは?

現在,福島第一原子力発電所(通称 1F)では冷却水を多核種除去設備 (ALPS) で処理し,それでも除去しきれないトリチウム(三重水素)を含む水を放出し始めたところです.

トリチウムは宇宙線と大気の相互作用で自然発生するほかに原子力発電所でも生成され,それは希釈したうえで海水に放出されています.これは欧米も中国も韓国も同じ.このトリチウムの量を記述するときに使われるのがベクレル (becquerel) という単位.私は不勉強でよく知らなかったため,この機会に改めて調べてみました.

トリチウムは,陽子 1 個と中性子 2 個が結合した原子核と,電子 1 個から成る原子のこと.普通の水素に比べると中性子 2 個分の質量が加わるため 3 倍の質量を持ちます.外殻電子は 1 個で水素と同じなので化学的性質は水素とほとんど同じ.つまり 3 倍重い水素と思えばよいでしょう.

ところがこの原子は不安定で,半減期 12.32 年で自然崩壊します.つまり 1 kg のトリチウムがあったとすると, 12.32 年後までに 0.5 kg はベータ崩壊して,ヘリウム 3 と電子と反電子ニュートリノになります.このときの電子のエネルギーは 5.7 keV と低いので,人間の皮膚を通過できないほどです.

さて,ベクレルです.ベクレルとは放射能の強さを表す単位ですが,原子核が崩壊して放射線を出すので,それが 1 秒間に何回起きるのかで定義されています.単位はベクレル (Bq) とされていますが,定義により 1/s を言い換えているにすぎません.

毎秒崩壊する原子核の数 = 定数×崩壊していない原子核の数

という法則があり,かつこの定数は

ln(2) / 半減期

と計算できるので,放射能の強さは

( ln(2) / 半減期 ) * 崩壊していない原子核の数

と求まります.

例えば,1 mol (6.02 x 10^23 個) のトリチウムの放射能は,

ln(2) / (12.32 * 365 * 24 * 60 * 60) * (6.02 x 10^23) = 1.07 x 10^15 = 1.07 PBq

ということになります.ペタ (P) などという SI 接頭語が出てくるのがベクレルの特徴です.

Wikipedia のトリチウム水の記事によれば,1F のタンク群に貯められているトリチウムの総量は 8.60 x 10^14 Bq らしいので,これから逆算してトリチウムのモル数を求めると 0.804 mol ということになります.これはトリチウム水という分子量が 20 の水として存在するので,その総質量は約 16 g です.

ようやく数量的な感覚がつかめてきました.この 16 g のトリチウム水を何十年かかけて海に放出するわけです.ごく薄い濃度のトリチウム水をさらに希釈して放出するので,全然大したことはないと考えがちですが,過去に事故で何人か亡くなっているような放射性物質であることに変わりはなく,欧米や日本ではトリチウム水の水質基準が定められています.1F では WHO の飲料水基準 10^4 Bq/L の約 1/7 に希釈して放出することになっているそうです.ちなみに一般的な原子力発電所からは,1.0 から 2.0 x 10^12 Bq / 年程度のトリチウム水を海洋に放出しているそうです.

風評被害が発生しないことを祈りますが,私は福島産の魚をこれからも食べていこうと思っています.

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2023/08/17

君はひょっとしてナヴィエ・ストークス方程式に取り組んでいるのではないか?

流体力学の基本方程式ナヴィエ・ストークス方程式.移流項という非線形項に加えて粘性による散逸項を含む 3 次元の偏微分方程式.ナヴィエの最初の導出はかなり滅茶苦茶なものだったそうですが,何十年か経つうちにストークスによって洗練された正し導出が行われたそうです.

Ns_equations

しかし「発見」されてすでに 200 年近く経つのに,いまだに解の存在や解が大域的に滑らかであるという証明はなされていません.それくらい難しい数学の難問の一つ.百万ドルの賞金が懸かったミレニアム問題の一つです.ま,それでも流体が滑らかに流れていく様を毎日眺めている私たちにとっては,数学的に証明できないだけで,それが正しいことは自明にも思えるのですが.

ところで,これもミレニアム問題の一つだったポアンカレ予想は,ロシア人の数学者グリゴリー・ペレルマンによって,誰も予想しなかった数学的手法によって 2002 年ころに解かれ,2006 年ころまでに検証されました.しかし彼は証明に利用した「リッチ・フロー」という概念を確立した R. S. ハミルトンに対する数学界の評価が正当でないと不満を持ち,フィールズ賞もミレニアム賞の受賞も辞退して引きこもってしまいます.

G_perelman

当然,変わり者の天才数学者というレッテルを貼られ,その引きこもりは現在でも続いているようです.生まれ故郷のサンクトペテルブルクのアパートに母親と一緒に住み,母親の年金で暮らしているともいわれています.

さて,ここからが本題なのですが,私は彼,グリーシャがナヴィエ・ストークス方程式の証明に取り組んでいるのではないかと期待しているのです.彼は数学者ではあるものの,理論物理学者という一面も持ち合わせ,ポアンカレ予想の証明論文には,エントロピーや温度などという物理学の概念が散りばめられて数学者を困惑させたといういわく付きです.純粋数学の問題よりも,物理学の問題であるナヴィエ・ストークス方程式に気を惹かれるのは当然です.

引きこもりはもう20年近く続いているので,そろそろ何か成果が出てきてほしいところ.あるいは何も出てこないまま数学者のキャリアを終えてしまうかもしれません.また,もう一つの可能性はやはりミレニアム問題の一つのリーマン予想に取り組んでいるのかもしれません.こちらは問題としては格上とされているので,さらに困難が予想されます.

ポアンカレ予想の証明に際しては,彼は学界の誰とも交流せず,議論もせず,たった一人で引きこもったまま孤独な格闘を続けたのですが,私はこのようなやり方ではナヴィエ・ストークス方程式の秘密が解き明かされるような気はしません.なんとか引きこもりを解いて,世界の数学者たちと議論をしながら研究を進めていってほしいと思います.

彼ほどの業績であれば,世界中のどの大学や研究機関であっても,学生への講義の義務などないポストを用意してくれることは確実です.母親の年金の脛をかじるのではなく,堂々と自分で稼げるはずなのです.あるいはクラウド・ファンディングを募れば,世界中の数学ファン,物理学ファンから有り余る募金が寄せられるでしょう.その金で好きな国で暮しながら研究を続ければよいのです.日本に来てもよいと思います.寿司を食べ,温泉につかりながら発想を練ってもよいではありませんか.お湯の流れは方程式の解の一つなのですから.

精神を病んだ天才チェスプレイヤーのボビー・フィッシャーが一時期日本でかくまわれ,穏やかな日々を過ごしていたことを思い出します.日本政府,特に法務省の対応は最悪でしたが.

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2023/08/10

日本鳥類目録第8版はさらに来年に延期

大変残念なお知らせです.

日本鳥類目録改訂第 8 版の出版は,第 7 版の出版からちょうど 10 年目の 2022 年に予定されていたのですが,コロナ禍による作業の遅れなどを理由に今年 2023 年 9 月に延期されていました.私は 11 年ぶりの改訂を楽しみにしており,新たな目録に基づいた Refsort/Ruby の辞書ファイル作成に向けて手ぐすね引いて待っていました.

しかし昨日 8 月 9 日,日本鳥学会目録編集委員会からのアナウンスがあり,諸作業が遅れていること, 10 月中に暫定リストを示して第 2 回パブリックコメントを募集する予定であることから,出版をさらに 1 年延ばして 2024 年 9 月とするそうです.

待っている身としては気が抜けちゃいましたが,とりあえず暫定リストの入手を試みたいと思います.

作業に携わっているのはそれぞれ自分の仕事を抱えた研究者の方々なので文句は言えませんが,目録の改訂頻度をせめて 3 年に 1 回とか,少なくとも 5 年に 1 回くらいにできないものかと思います.公的な資金や補助金を得て(準)専任者を雇ってもよいくらい重要な仕事だと思うのですが,いかがなものでしょうか?

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2023/08/04

ハヤブサは大気密度で押し返される

今日も酷暑なので朝からエアコンの効いた部屋に引きこもっています.昨日ポストしたハヤブサの降下速度に関する記事を読み返してみて,あらためて粗い近似での推定しか行っていないことに気づき,もう少し精度の良い計算をしようと思い立ちました.ヒマなので.

高空から自由落下する質点の運動方程式を解けばよいのですが,残念ながら空気の抵抗は速度の 2 乗に比例するので非線形の微分方程式になります.かつ昨日の記事では定数としていた重力加速度や空気密度は高度の関数なので,これらの値も降下するにしたがって変化していきます.

解析的に解くことは諦めて数値的に積分することにしました.標準大気表を用いて Excel 上で落下後 0.05 秒ごとの重力加速度と空気の抗力から加速度を求め,それを積分して速度,さらにそれを積分して高度が分かります.循環参照が生じるのを避けて計算は 1 次精度の陽解法としましたが,時間刻みを小さくとっているので誤差は十分に小さいと思います.そして結果をグラフにしてみると意外なことがわかりました.

Falcon_alt_vel

グラフの横軸は降下開始からの時間,高度は灰色の曲線でその目盛は左の縦軸,速度はオレンジの曲線で右の縦軸が目盛です.降下する速度の符号を負にとっています.

ハヤブサは高度 5,200 m から降下しながら速度を増していくのですが,終端速度というものは存在せず,降下開始から 25.9 秒後に高度 3,050 m で最高速度 116.7 m/s に達した後は,むしろ減速しながら降下していくのです.地表に到達したときの速度は 103 m/s にまで減速しています.

こうなるのは降下するにつれて空気の密度がどんどん大きくなっていくからです.横軸を降下時間にとった空気密度のグラフを示しますが,これを見ると地表付近では降下開始時より 7 割も大きくなっているのです.空気抵抗は空気密度に比例するので,これでは減速するのは当然です.

Air_density

空気密度や重力加速度が一定であれば,非線形ながらこの微分方程式には解析解があって,速度は時間に関する双極正接 tanh の形になります.時間を大きくすれば速度は一定値に漸近し,終端速度が求まります.しかし空気密度が上記のように大きく変化するので,これは正しいとは言えなくなります.

ということで,ハヤブサは降下当初は薄い空気の中を勢いよく加速していくのですが,やがて濃くなっていく空気に押し返されて減速を始める,それもまだかなり高い 3,000 m でそうなるということが分かりました.昨日は恐るべしハヤブサと思ったのですが,今日は恐るべし大気という感じです.高空からスカイダイヴする人は経験上知っているのではないかな?

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2023/08/03

ハヤブサはマッハ 0.3 で飛べるか?

暑いので冷房の効いた部屋に引きこもる生活を続けているのですが,YouTube を渉猟していたら “ Top 5 Fastest Birds in the World” という子供向けのタイトルがあったので思わず観てしまいました.そしていくつか疑問が・・・

第 2 位はなんとイヌワシだそうです.しかもその最高速度は 320 km/h!これホントかなあ?アマツバメより速い.水平飛行でこの速度を出すのはイヌワシには無理なので,翼をたたんで急降下した場合の話なのでしょうし,体格が大きくて “体重/正面面積” の比が大きいから,終端速度が大きくなるのはわかりますが,落下距離がかなり必要なはず.

第 1 位はハヤブサです.こちらは話に尾ひれが付いていて,これまでに計測された最高速度は 389 km/h !これはギネス記録です.高度 17,000 ft (5,200 m) でセスナ 172 スカイホーク から放たれ,尾羽に取り付けられた高度記録計によって記録されたものです.このとき,ハヤブサが追うべき餌としてルアーを落とし,飼い主とカメラマンも同時にダイヴしたそうです.これは National Geographic のドキュメンタリー “Terminal Velocity(終端速度)” として 1999 年に撮られ,2002年に放映されました.こちらをご覧ください.

ちょっと疑問なのは,これは飛行速度というよりは番組のタイトル通り落下の「終端速度」というべきものです.さらに,高空なので大気密度は低いため,終端速度は大きくなりやすい.ちょっと簡単に見積もってみましょう.

このハヤブサ,Frightful という名の 6 歳のメス.難しいのは代表面積の取りかたです.彼女の頭胴長は 41 cm,翼開長は 104 cm なのですが,翼をたたんで急降下している状況なので正面面積が欲しいです.翼をたたんだときの正面面積として,まず直径 15 ㎝ の円の面積を使うことにします.これは 0.0177 m^2 です.次に彼女の抗力計数 CD を小さめに見積もって 0.1 としましょう.終端速度に近づいたであろう高度として 2,000 m をとると,その高度での大気密度は 1.007 kg/m^3 です.そこを 389 km/h = 108 m/s で飛んだ場合の抗力は,

(1/2) * ρ * v^2 * S * CD = (1/2) * 1.007 * 108^2 * 0.0177 * 0.1 = 10.4 N

一方彼女の体重は 0.998 kg ですが,高度記録計が 0.113 kg 加わるので,合計の重力は 10.9 N となり,ほぼ完全に釣り合います.うーむ我ながら見事な見積りです.

この高度での音速はだいたい 332 m/s なのでマッハ数は 0.33 程度となり,空気の圧縮性をそろそろ考慮しなければならない領域に到達していますが,体の周囲のどこをとっても衝撃波が発生することはないので,さほどの支障はないでしょう.支障があるとすれば自由落下から回復するときの空気力.これは抗力係数で言えば 1.0 のオーダーになるので,最大で 100 N 程度になりえます.これを翼の筋肉で支えられるか?まあ羽ばたきのことを考えると大丈夫なのでしょう.

ということで,ハヤブサがマッハ 0.3 程度で飛べることはほぼ確実です.素晴らしいですね.

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2023/07/28

IOC List v13.2 Released

IOC World Bird List v13.2 が リリースされた模様です.これは 2023 年 2 回目のリリースです.前回 2023 年 1 月のリリースから 5 か月ちょっとでのアップデートとなりました.ただし正式なリリース日は判然とせず,IOC の Web site ではいまだ v13.2 への移行が完了したというアナウンスはありません.最初に Master List がアップロードされたのが 7 月 18 日なので,私としてはこの日をリリース日とみなそうと思います.

今回収録されたのはが 44 ,が 253,が 2,376 ,が 11,161 (うち絶滅種が 160 ),亜種が 19,818 です.

前回 v13.1 と比較すると,亜種から種への昇格や新種の登録はまあまあ平均的な数量でしたが,英名の変更が比較的多く,また属の異動(属名の変更)も多かったという印象です.厄介なことに科内や属内のシーケンスの変更もそれなりにあります.

例によって日本のバーダー向けに重要と思われる変更点を書いておきますが,今回はすべてが英名の変更に関するものです.Japanese という接頭語が他の単語に置き換えられる例が目につきます.

  1. Hierococcyx hyperythrus,ジュウイチの英名が Rufous Hawk-Cuckoo から Northern Hawk-Cuckoo に変更されました.
  2. Columba janthina,カラスバトの英名が Japanese Wood Pigeon から Black Wood Pigeon に変更されました.
  3. Charadrius mongolus,メダイチドリの英名が Lesser Sand Plover から Siberian Sand Plover に変更されました.この変更の背後には,メダイチドリの亜種だったC. mongolus atrifronsが種に昇格して C. atrifrons, Tibetan Sand Plover, チベットメダイチドリとなったことがあります.
  4. Accipiter gentilis,オオタカの英名が Northern Goshawk から Eurasian Goshawk に変更されました.
  5. Terpsiphone atrocaudata,サンコウチョウの英名が Japanese Paradise Flycatcher から Black Paradise Flycatcher に変更されました.
  6. Delichon urbicum,ニシイワツバメの英名が Common House Martin から Western House Martin に変更されました.
  7. Fringilla coelebs,ズアオアトリの英名が Common Chaffinch から Eurasian Chaffinch(暫定名)に変更されました.
  8. Emberiza yessoensis,コジュリンの英名が Japanese Reed Bunting から Ochre-rumped Bunting に変更されました.

今年 9 月に日本鳥学会の日本鳥類目録改訂第 8 版のリリースが予定されていますが,上記の変更を含めて世界の鳥類目録との差異がどの程度縮まるのか見守りたいと思います.すでにパブリックコメントに寄せられている意見とそれに対する回答は大変興味深いです.新しい日本鳥類目録に準拠した辞書ファイルもできるだけ速やかに作成するつもりです.


IOC 本家の Master List(学名と英名を収録した Excel ファイル)を編集して,Refsort/Ruby 用の辞書ファイル(拡張子が .ref のテキストファイル)を作りましたので,Microsoft One Drive 上に設けた “IOC List Archive” にアップロードしました.エンコーディングは UTF-8US-ASCII の2種類です.正版は UTF-8 版で US-ASCII 版は簡易版ですが,詳細についてはユーザーズガイドをご覧ください.


このオリジナル版の辞書ファイルと併せて,全ての掲載種に和名を付与した辞書ファイル 2 種と,IOC Master List の和名追加版(Excel ファイル)も同時にリリースしました.これら和名追加辞書についても,UTF-8 でエンコードしてあるものが正版ですが,Windows などでの使い勝手を考慮して Windows-31J でエンコードしたものも同時にアップしてあります.詳細についてはユーザーズガイドをご覧ください.

単に種名を調べるためだけであれば,和名追加版の Master List(Excel ファイル)が最も便利です.ただし長大なワークシートなので,目的の名前をスクロールして探すのは非効率です.検索メニューからジャンプするのが良いでしょう.


これらのファイルは前述のとおり,Microsoft One Drive 上に設けた IOC List 専用のフォルダからダウンロードできます.それには,このブログ右側のコラムの最上段の Archive の中の IOC List Archive をクリックしてください.そうすると One Drive のフォルダに入ることができますので,あとは適当に選んでダウンロードしてください.


I am pleased to announce that I have posted reference files for Refsort/Ruby compiled directly from the latest IOC World Bird List v13.2. It contains 44 Orders, 253 Families, 2,376 Genera, 11,161 species including 160 extinct ones, and 19,818 subspecies, respectively. Please try it out, and enjoy its capability and speed.

Note that the reference file "ioclist_v132u.ref" is encoded in UTF-8 in order to retain all European accents and umlauts with complete fidelity as they are in the IOC Master List.

For those who want to use Refsort/Ruby in universal ASCII environments, I have posted another reference file "ioclist_v132a.ref" encoded in pure US-ASCII. Note that characters with accents and umlauts have been simplified to their nearest neighbors. So please be careful in particular when you refer to authorities of species.

I have also posted two different reference files "ioclist_v132ju.ref" and "ioclist_v132jw.ref" (encoded in UTF-8 and Windows-31J, respectively) which include Japanese names for all species. If you want to know Japanese names, please refer to those files.

In order to sort a list properly using these reference files, you need to align the encoding of the input file to that of the reference file, and you should add a magic comment specifying the encoding in the first line of these files, such as

#!E -*- coding: UTF-8 -*-

or, add an option "-E UTF-8" into your commandline.

You can skip this process if your iput file is encoded in the default encoding of your platform, e.g., US-ASCII or Windows-31J for Windows, UTF-8 for macOS or Linux.

A master list in Excel format containing a column of Japanese names has been posted as well. This would be most convenient for quick reference.

You can download appropriate files from my area of Microsoft One Drive by clicking “IOC List Archive”. Enjoy, and bon appétit.

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